Comments by Dr Marks

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マンダラケ(Mandrake、英音マンドゥレイク)の実とリンゴの実とエデンの園の実


なぜか和名はマンダラゲと「ケ」が濁り、漢字では曼荼羅華と書くらしい。性的欲求のないメスの象とオスの象が、この実を食べて催したという古い民話はご存知だろう。(この民話のもっとも古い写本は紀元1−2世紀のものとみられるギリシア語本文。)この実はヘブル語ではドゥーダイームというが、日本語聖書(新共同訳)では「恋なすび」と訳されていて2回出てくる。しかし、創世記3章のアダムとイヴの話ではない。

そもそも聖書学者は禁断の実がリンゴだったなどと言うはずがない。何の実かわからないのだ。それがリンゴだったと初めに言った人物が誰かは、文献で辿れる限りは、5世紀にガリア(ゴール、今のヨーロッパ西部)にいたキプリアヌスであるとされている。なぜ彼がリンゴと言ったかというと、リンゴが彼の周りにはいくらでもあったということと、リンゴが健康によいことなどであろうと推測される。

ところで、それはマンダラケではないかという話がある。なぜなら、英語でもマンダラケはメイアップルとも呼ばれるように、実がリンゴに擬されることが多いからだ。しかし、前述のごとく、マンダラケ(恋なすび)はエデンの園の木の実ではない。マンダラケが出てくるのは、同じ創世記のラケルヤコブの話のところ(30章14節)と、雅歌7章の「おとめの歌」である。

この記事は、ドイツのカトリック旧約学者で考古学者で人類学者であるベルンハルト・ラングの近刊を読んでいてなんとなく書いたものだ。もっとこんな仕様もない話を知りたい人のために、その本を紹介する。Lang, Bernhard. Hebrew Life and Literature (Fernham, England and Burlington, VT, U.S.A.: Ashgate Publishing Company, 2008)