Comments by Dr Marks

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プレゼントの応酬?!?―何のこっちゃの米国事情

ホントに驚いたのは細君が現金をもらってきたことだ。私の場合はもうない。せいぜい商品券というところだ。現金は私が出すだけで私が現金をもらうことはない。その代わり、ネクタイなどの品物やお菓子やチョコレートや果物の詰め合わせなどは来る。日本のお歳暮みたいなものだ。酒は(飲めないわけではないが)飲む習慣がないことを知っているので来ないな。

今夜は近所のドクター・クマール一家がパーティー詰め合わせセットを持って来てくれた。裏庭を駐車場として貸しているが、私たちは現金は一切受け取らないことを知っているので、この機会に挨拶してくれたのだろう。今回は、こちらも心よく感謝していただくことにした。

反対に(私はあまりしないほうだが、それでも)品物を何箇所かには届ける。そのつどいろいろと考えるのと、買いに行く手間が大変だ。この時期は、自分の場合を考えてみれば、いきなり多量の食料品を持ってこられても困る。食べきれないのだ。結局またどこかにおすそ分けせざるをえなくなる。そこで今回は商品券にしてみた。若い人なら事務用品店のカード(Office Depot)、お年寄りは食料品店のカード(Trader Joe's)だ。好きなときに、好きなものが買える。私ももらうと、日頃はがまんして買い控えていたようなものを思い切って買うことができるから、商品券は嬉しい。

私も現金をもらうことがあったのは、神学部の修士課程に通いながら牧師見習いのようなことをしていたときだ。信徒の方々が、それぞれのお気持ち一杯の小切手をカードに入れて渡してくださった。その頃多少の貯えはあったが、収入のないときなので嬉しかった。お年寄りなどは引退している身だから本当に一人一人は小額だが、合わせれば教会からもらう月々の報酬額の2−3倍になり感謝に耐えなかった。

クリスマスが近くなって急に肺炎で亡くなられたおばあさんがいた。クリスマスやイースターにはかならず心づけをくださるお方だったが、クリスマスが近づいていたのに急逝されたことが残念なだけで、まさかクリスマス・プレゼントをもらえなくなったことなど念頭に浮かぶこともなかった。ところが、お葬式が終わって間もなくクリスマスというときに、彼女の息子さんから小切手が届いた。息子さんからの説明書きも入っていた。病の床で意識がなくなる前に、彼女が作っておいたクリスマス・プレゼントのリストに従って贈るようにと息子さんに遺言したそうだ。彼はそれを実行し、私にも天国にいる彼女から贈られたことになる。

ところで、神学生なら金に困っているのが普通だろうからお金を上げていいが、普通のアメリカの有力教団の牧師になどお金は上げなくていい。有り余るほどもらっているから、上げたければ救世軍にでも寄付したほうがいいだろう。もちろん、個々のケースによって違うが、彼らは日本のクリスチャンが想像するよりしっかりもらっているから大丈夫だ。引退後の年金も手厚い。それなのにケチで強欲が結構多いから気をつけたほうがいい。日本の坊主と一緒で、もらうことに慣れすぎて感覚が麻痺しているのだ。

ただし、独立系の牧師は話が別だ。大概貧乏だ。S先生はよくクリスマスの奇跡を語ってくれたが、独立系貧乏牧師の子息ゆえの「奇跡」物語だった。まあ、奇跡といっても大した奇跡ではないし、多少大袈裟に語ってくれたのかもしれない。彼はハーヴァードで修士を得たあとフラーでPh.D.を得た優秀な人で、当時神学部の専任講師をしていたが、子供の頃は本当に貧しかったそうだ。父親はろくな実入り(献金)もない小屋のような教会を運営していた。クリスマスが近づいてもS先生には何のプレゼントもなく、とうとうイヴの晩になっても食べるものさえなかったそうだ。しかし、父親は黙々とその小さい教会を開き、イヴの礼拝の準備をしている。

S先生はひもじいのに教会の手伝いをさせられて、お母さんに文句を言ったら、「信じていなさい、今晩はご馳走ですよ」というだけで取り合わない。彼は我慢して献金係その他の手伝いをしぶしぶながらも忠実にこなしていた。場末の小さな教会などにイヴ礼拝に来るような物好きは少ない。25セントの献金をやっとするような信者たちが数人集うだけだった。教会員そのものが貧しいのだ。すると「奇跡」が起こった。教会の前に高級車が停まり、紳士が降りてきた。彼は、教会の後ろの席に座ると、無造作に百ドル札を5枚出して献金箱に入れた。今から多分二十余年前の500ドルなら、今の2千ドルくらいであろう。献金係をしていて500ドルを目の前で見たS先生は狂喜して空いた口がふさがらず、「あっあっ」と、ただ献金箱を指差してお母さんのほうを見ると、500ドルという金額までは知ってか知らずか涼しい顔をして「ねっ」というようにウィンクしたそうだ。

独立系ならみんな貧しいかというとそうでもない。オバマにえらく気に入られてしまったリック・ウォーレン(こいつはフラーで牧会学博士 Doctor of Ministry という職業学位を得ているから一応私の同窓生?)などは、全米で4番目に大きい教会の主任牧師なんだから大金持ちだよ。著書もやたらに売れているからな。なぜか通俗的大衆的な「神学」書のほうが売れてしまうんだよ。ありゃ、実は神学ではないんだが…、まっいいか。