Comments by Dr Marks

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ダヤン将軍の馬鹿息子の映画『AGFAによる生活』を紹介する(再びイスラエル映画でごまかすブログ)余はそれほど好きくないが好きな人は好きなんやろな


まあ、それは当たり前ではあるが、余がそれほど好まない理由は、救いが見えないこと、明るく楽しくないことだ。好きな人は多分、一つには1992年の作品なのに白黒で撮っており、ストーリーそのものが非凡であることかもしれない。しかし、余が非凡と言ったとしても、小説の先生である小谷野敦猫猫先生によれば平凡になるかもしれない。

映画の原題は『ハ・ハイム・アルピ・アグファ(英語題:Life According to AGFA)』でダヤン将軍の馬鹿息子アッシ・ダヤン(Assi Dayan)が脚本・監督だ。彼は馬鹿息子だが、俳優としてもよくやっている。なぜ、馬鹿を付けるかというと、生活が乱れていて薬に溺れており、昨年も有罪判決が下ったが、なぜか刑罰が軽いので悪い癖が治るかどうかはわからない。なお、比較してはいけないかもしれないが、彼の姉ちゃんはIDF(イスラエル自衛隊)の勇士だったし、最近まで国会議員をしていた。

舞台は1960年代から70年代のテルアヴィヴの町だ。今でもこの町は非常に世俗的で、この映画でも深夜営業のバーが主人公のようなもの。女主人のダリヤは癌を患った映画プロデューサーの愛人で結局捨てられたり、共同経営者でカメラ好きの女レオーラはいつも公然と(レオーラの目の前で)女の尻を追い掛け回している刑事ベニーに手を焼いている。店は結構はやっているが、ろくな客種ではないから悶着が絶えない。厨房の二人はアラブ人というのも騒ぎの種だ。

この映画があまり好きではない余でも、これはいいなと思われるのは、バーで作詞作曲して歌うピアニストだ。どの歌もいい。(オリジナルではない歌も登場するが。)そして、題となったドイツのカメラAGFAによる(撮影者はレオーラ)登場人物の写真がいい。ネタバレになるので本当は書いてはいけないのだろうが、ベニーが拾った女がレオーラの8階にある部屋から飛び降りて自殺するのを皮切りに、登場人物のほとんどが死ぬことになる。アメリカのビザが取れて喜んでいた女も、女主人ダリアも国連軍の男と、ベニーとレオーラも抱き合ったまま死んでいく。

たぶん、その場で死ななかったダリアの映画プロデューサーをしている愛人も癌で近いうちに死ぬ。死んだいずれの登場人物も、主のいないレオーラの8階のアパートで、現像・紙焼きされた写真として洗濯バサミに挟まれて、窓から入る風に揺られて乾かされている。その紙焼きの一人一人の顔が映し出されて映画は終わる。ここバーでの生活あるいは生涯は、AGAFAカメラの映像によったものということになる。それが映画の題名だ。