Comments by Dr Marks

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エジプトのムバラクから軍事独裁 (Military Dictatorship) への移行は合法的かについてのショート・ノート(ちょっと長すぎたかな、エジプトの法律)


ヨウツベは専門家(Gilbert Achcar)によるエジプト軍事独裁の歴史。聞き手 Paul Jay。

余はエジプトの専門家ではない。お墓の研究で博士(Ph.D.)になったが(これは本当 cf. Dissertation Abstracts)、ファラオのお墓じゃないから関係はない。法律は仕事で多少の付き合いはあるが、エジプトの法律や政治制度はよくわからない。そんなよくわからない者が書くショート・ノートだからだまされるなよ。

エジプトというのは昔からの大国で西欧とも形の上では対等の関係を保ってきた。1923年には最初の憲法が発布され、政教分離もそのとき明文化された。しかし、現在のエジプト共和国の憲法は、サダト大統領時代の1971年憲法が土台であり、かつ1980年に同大統領が改正したものが主要な内容である。1980年の改正では、私法の一部(結婚など)がイスラム法を尊重するものとなった。最近の改正は2005年である。英文で憲法を読めるサイトはこちら(エジプト政府公式サイト)→http://www.egypt.gov.eg/english/laws/constitution/default.aspx

さて、この憲法によると(憲法5章:73条以下参照)、大統領は健康等の理由で任期に辞表を提出して辞任することができる。その際は、エジプト衆議院議長が大統領の権限を次の大統領が選出されるまで(最長で60日間)務めることになる。なお、副大統領が大統領の代理をするのは大統領自身に国家に対する犯罪の嫌疑等で弾劾された場合である。

そのような憲法の規定があるにもかかわらず、今回は「革命」と言ってしまえばそれまでではあるが、何ゆえに軍部が独占して権限を掌握し、かつ衆議院参議院(エジプトの二院をまるで日本の二院のように訳したが適訳だと思う)を解散して憲法まで(暫定的に)停止できるのか。どこにそのような法的根拠があるのかと疑問の方も多いだろう。(むしろ疑問がなければおかしいか。)

今は軍事最高評議会の独裁である。そういえば、一部の国民を除けば、このことでエジプト人に不満はないようだ。むしろ喜んでいる。ムバラクが独裁者なら軍事独裁になっただけであり、もともと世界でも稀なる超の付く独裁者ファラオを戴いてきたエジプトだから平気さ・・・というわけではない。普通は憲法こそ最高法規であるのに、それ以外の規範があるのか。

あるんだ。実は、1958年の非常事態宣言に関わる法律が生きていて、国家存亡の危機に当たっては、軍部が軍事最高評議会の合議をもって国家を運営する。ただし、この軍事最高評議会が結成され召集されたのは二度だけのようだ。一度が対イスラエル戦争のときであり、二度目が今回の「革命」である。

現在のメンバーは、ムバラク政権で防衛省大臣であった陸海空三軍の統合幕僚長モハメッド・フセイン・タンタウィ将軍が評議会議長であり、他に10人の軍人となっている。なお、アルジャジーラ等の報道では、ムバラク政権での副大統領と首相も構成員であるらしい。首相は現在も首相の職を継続しているが、構成員は都合13人ということかあるいは元副大統領と首相はオブザーヴァーなのか余は素人なのでよくわからん。まあ、そんな具合だ。

そうそう、大統領と首相の両方がいる国というのはわからないね。首相が実質的に政治を執り行い、大統領は国家元首であってもあまり仕事をしない国もあるが、エジプトは大統領の権限のほうがはるかに大きい。なにしろ例の憲法では、議会の同意なしに首相を任免・罷免できるほどの権限を大統領は持っているんだ。で、ダイトウーリョーは世界に対しての顔でもあるが、首相は国内諸般の事務方の親分にすぎない。