Comments by Dr Marks

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ネット界匿名と「なりすまし」行為を日本語サイトで見ているうちに偶然見つけた記事についてのコメント―北米大学院の Graduate Advisor について

ずいぶん長い題になったが、動機はその通りなのでそのまま書いてみた。実際、今夜は Mary H おばさん(Hはハーシュコーヴィッツの頭文字)の手料理(ひき肉ときのこたっぷりのシチューとソーセージ)を貰い食べ過ぎて、まともなことはやりたくないのでネット検索していた次第。冷たい牛乳と一緒に食べたのでお腹の具合も悪い。牛乳に弱いのは日本人としての血統のせいか

Mary H おばさんは、自称も他称も Mary H だ。ともかく Mary はたくさんいるので区別のつもりだ。しかし、ナチ収容所の刺青をもつ旦那さんは「メ〜リー」と甘く呼びかけるだけ。(彼女の実名なので、ネットにかかりにくくするために姓の綴りは片仮名にしておいた。) 本当は Miriam とでも言えばいいのに、ユダヤ人であることを普段隠しているが、ユダヤ人の悪口を言われると流石に堪忍袋の緒が切れる。彼女が怒った最高傑作は次のとおり。Lady A「ねー、ユダヤ人て本当に嫌ね。あなた、ユダヤ人のお知り合いいらっしゃる?」Mary H「いますよ私にも、とっても仲のいいのが」Lady A「あら、どんな方」Mary H「私の父と母です」Lady A「……」。

ところで、偽ユダヤ人と日本人、イザヤ・ベンダサン、etc. と Dr. Marks がキーワードで繋がっていた。何か勘違いしていないか? 私は特別な事情があって年齢・住所・電話番号等は「実生活」(←ネット界などというけちな世界じゃないよ)でも明らかにしていない。非常勤で教えているところでも、それで通るのがアメリカだ。学校に通知・提出してあるのが、Social Securityの番号、私書箱、Eメールの連絡先、略歴と学位証明。それだけだ。私は、実名が Mark W. Waterman であり、アメリカ国籍であり、大伯父との関連で日系であることを明言したが、それ以外のことは何も言っていないし、一般の人に言うつもりもない。だいたい私は、イザヤ・ベンダサンのような、ユダヤキリスト教に関しての素人ではない。日本で見つけるのは難しい筋金入りだ(←どんな筋?)。もっとも、山本七平という人は青山の旧商業科出身だが、出版人としてよい出版もしたし、素人にしてはたくさん書いていて、例の「研究図書館」にも10冊くらいあったが(←猫猫先生より有名?)、あれは日本人向けの戯言で、日本の知的レベルに合わせたものだ。

脱線を戻そう。IPアドレスまで盗めばどこからみても犯罪だが、匿名とハンドルネーム(HN)を安易に利用した中傷記事が日本で横行しているのを最近知った。どうやら、本家のブログに来てくださる世界中の日本語使いと猫猫先生関係のネット人間は毛色が違うらしい。私には、若いITアドヴァイザーがいて、本家のブログのパスワードを変えるように進言された。つまり、進入しての書き込みくらいならいいが、乗っ取られて悪さをされたら、その責任はすべて私に来る可能性があるというのだ。承知はしていたが、訪問者が多くなればそのための防備は必要と、記憶のために単純だったパスワードをかなり複雑なものに取り替えた。

その「なりすまし」匿名ないし「なりすまし」HN関連で、前回、猫猫先生の英語を弁護したような形になったが、ひょっとしたら却ってご迷惑をかけたかもしれないと思った。小谷野先生がカナダ留学について何かおっしゃったらしく、そのことを悪意に満ちた表現で何度も何度もネットにオンしている。そんなところで「名無しさん」とか訳の分からない「なりすまし」風HNで書いているのにコメントする気にもならず、ここに書き出したわけである。

だいたい、本人がそう書いているならそれでいいではないか。カナダの博士課程を flunk したのである。That’s it! 北米の博士課程(Ph.D. program)は、私が常々表明しているように、通常、東京大学より厳しい。しかし、東京大学より情け深い面もある。無駄に人生を過ごさせず、早め早めに大学から追い出すし、ある程度のお土産も持たせる。Flunk の種類も数々ある。文学の大学院は、花嫁学校でないかぎり、修士課程はない。直接、博士課程となるのが多い(従って有名校のみの設置)。

1年目で学業不良であれば、すぐに probation となる。前期(2-3 years)の必要なコースワークで発表と小論文(50 pages)をいくつか繰り返す。この段階で学業不良なら総合筆記試験(comprehensive examination)を受けさせてもらえず退校処分。この試験は正味数日間に及ぶのが普通で弁護士試験に似ている。専攻あるいは副専攻関連の出題に対し、個室でありったけの知識を脳味噌から捻り出し、論旨の通った小論文に仕上げるのである。部分的に fail すれば再受験の道があるが、複数の科目でだめなら、この段階で退校処分。受かった段階で博士候補の称号が使えるようになる。(これだけで正式に大学から Ph.D. cand. と名乗ってよいとの通知が来るのだ。)

文学系の場合、実は、それからが長い。後期の単位を外国で取ることもある程度許される。あるアイヴィーリーグの部内調査でも、大学院に入ってから出るまで平均9年だ。一番可哀想なのが、最後の論文が通らないケース。しかし、お土産に特別なM.A. よりは上等な修士号をくれることも多い。

さて、Graduate Advisor (GA)とは何か。学校によって名称は違うが、必ずこの役割のスタッフまたは先生(faculty)が博士課程にいる。この職の人は自ら Ph.D. の学位を有しているのが普通だ。学問上の指導教官とは別で、博士課程に入ったときから出るまで、学生のために一切の世話をやくビッグブラザー(シスター)と思えばいい。このGAにはちゃんと助手や秘書もいて、准教授待遇の人が多い。世話をやく一方で、ブログラムの厳正公正な管理者でもある。指導教官やその他の教官からの好悪双方の私情を遮断し、学生の成績や処分を中立的立場から院の最高会議(教授会)に諮るのもGAの職務だ

余計なことだが、GAが合議で猫猫先生の処分を決めた段階はどこか。どうやらその記事は削除されているらしく、詳細を直接読むことはできない。一番考えられるのは、博士候補試験すなわち総合筆記試験であるが、本当にここなら、英語ができないというより、質問に答えていない答案の内容であろう。言っておくが、まずこの試験は時間的に読み直す余裕もないほど過酷なもので、頭で考えることをペンを持つ手が走るように書いていくのでなければ合格の目処は立たない。普段、相当に立派な英語を書いている者も dangling も気にせず、自分は当該問題について最新の研究を含めてこれだけ知識があるし一家言を持っているということを大量に書き連ねるのである。もし、外国人であれば、多少の不規則英語など問題ではないはず

前記事に書いたように、コースワークでの小論文(term paper)の英語がよくない場合は、教授によってはかなりの問題になる可能性はある。But の後に挿入句がないのにコンマを入れただけで、そんな常識知らずの文章は読む気がしないとか、近頃の博士課程の学生の文章のレベルが下がったとか、etc. やたらに文章の芸術家気取りの教授がいることも確かである。このような教授と問題の学生の間に立つ場合、GAの立場は辛い。本当に見込みがないならば、なるべく早く去らせたほうがいいが、後半年勉強のコツをと執り成して上級の修士論文(Ph.M.)を取らせ、見事オックスフォードに送り出したGAもいるのだが。(←この学生は初め本当に小論文が書けなかった。泣いていた。しかし、アメリカで修行してコツを覚えたお陰で3年でオックスフォードで D. phil. を取った。日本人だ。今、東京で教えている。)