Comments by Dr Marks

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Dr. Marks のまだ題のない小説(Interlude)第3訂版

DrMarks2008-01-17


この物語はフィクションである。だから、誰かさんたちのように想像を逞しくして歴史を語り、悦に入る趣味はここにはない。

そもそも私は歴史家であり聖書神学者なのであって、小説家ではない。学者は学者らしく、たかが「小」説を書くに当たって、史実であると pretend するようなことはしたくない。これは徹頭徹尾フィクションである。ただし、この時代にテレヴィジョンを登場させたら、フィクションでもノンフィクションでもないナンセンスになるので、そのようなことには細心の注意を払っているだけである。歴史を書くなら、歴史学者らしく歴史を書くのであって、小説を書くときは歴史学者の看板は下ろして書く。どこぞの小説家と一緒にしてほしくない。

なぜ、こんなことを言うかといえば、「その11」で秋山真之海軍中佐(後の中将)を登場させたとき、私からコメントを禁止されている日本語が読める親しい友人が「ほう、『坂の上の雲』ですね」とEメールをくれた。私は即座に、「坂の上でも雲の上でもない、第一私はそんなに小説は読んでいないので、その中に登場する人とは知らなかった」と答えた。実際そうなのだ。後で知ったが、私はこの物語の主人公が『帝国文学』を手にするきっかけとして名を出さざるをえなかっただけで、多分、今後、この文学かぶれの海軍士官を登場させることはない
(えーと、コメントは誰からでも受け付けますが、日常会ったり、幼少時から私を知っている日本語使いにはコメントを禁止しています。それと、やはり彼らは自主的にコメントよりはEメールをくれるので助かっています。お心遣い、アリガトね。)
(この友人からまたEメールで秋山真之の実兄である秋山好古陸軍大将のことを教えてもらった。この兄は、元師範学校の出で、退役後の晩年は、この物語に登場する高梨海軍上等兵の出た新設北予中学校の校長にもなったそうだ。弟思いの優しい兄らしい。また弟真之同様に、単なる武人でないところがいい。同時代ではあるから当然ではあるが、あちこちで人は繋がるものだ。)

この次の話の前にいくつか思案していることがある。そこで思案の足しにと、漱石先生を細切れの時間を利用して拾い読みしていると、この大作家の文章にはとてもとても敵わないと悟らされてしまう。ただし、彼の思想そのものはまさに「小」説であって、近時の日本の大学で文人ぶっている偽学者先生方とそうは違わない。ただし、何の脈絡があるわけでもないが、きらりきらりと鋭い細切れの洞察があることは確かである。そして、読んでいて楽しい、あるいは面白い。

私は普段、小説を読む暇などない。数年前にJohn Grisham という元弁護士の流行作家を連続して読んでいたことはあるが、近頃の日本の小説などは全く読んでいない。小説ではないが、細君が好きなのでシェークスピアには常日頃接している。これは多少の役には立つが、もう少し次の話の肥やしにでもと思って、Tobias Smollett が英訳してくれた分厚い『ドンキホーテ』のペーパーバックも持ち歩いている。早速、今回のフィクション・ノンフィクションの記述が出てくるから面白い。

Don Quixote utter[s] such a medley of fiction and truth . . .

そうだ。私の小説も虚実ごちゃまぜ。しかし、いかに真実が混じっていようと、フィクションが少しでも入っているものはフィクションにすぎない

先にこの話は学園ものだと書いたが、学園で生涯を閉じた主人公のモデルにすれば学園と自分の学問の話が残された手記の大半であるのは致し方ない。しかし、そのような話を小説に余分に入れるのは面白くなかろうから、小説に組み入れなかった話は、このような形で少しずつ紹介することにする。

この手記そのものは、そのままでも実は面白い。一つ紹介しよう。例えば、彼の英語力だが、彼自身は自分の英語力にかなり不満のようである。私は小説中で渡米前からかなりの英語力があったと表現した。ある程度その通りだ。実際、一般の官学出より自信はあったとも書いている。しかし、聞き取りには長らく苦労したことが率直に述べられている。彼は、10年の滞米において、ほとんど日本語を使わない環境に自己を置いている。しかも、帰国してから後も家庭では英語の生活だった。しかし、それでも完璧ではなかったと告白している。その通りであろう。当たり前だ。もっとも、だからたいしたことはなかっただろう、と思う読者がいたら、それも早計だ。

(写真は、この頃、ヨーロッパから移民したユダヤ人の娘。この小説の主人公の妻だろうなどと勝手な想像をしてはならない。なお、「その10」で紹介した主人公の写真をネットに上げたのは私の仕業であり初公開であるが、この娘はすでにネット上にある。ヨーロッパから来た元娘はの発音が強い。俺を呼ぶのに、まく、まく、だぜ。俺って、人間が丸くないってか?)