Comments by Dr Marks

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「命より大事にしたかったもの」と「俗説」(「NHC、DSS、Auschwitz Torah」と「猫猫ブログ & Vergilius Vaticanus」)

DrMarks2008-05-01


何だ、このエントリーは? 精神分裂ではない。多少の繋がりはあるつもりだ。

小谷野先生が「古代ギリシャ・ローマ文化は中世には忘れられていて、ルネサンス期にイスラームから逆輸入されたとある。村上陽一郎がそう書いているらしく、私もむかし村上に教わって以来長くそう信じていたが、実は間違い」と述べていた。全面的に村上が間違いではないが、確かに中世西洋世界がギリシア・ローマの古典を忘れていたというのは猫猫先生ご指摘のとおり俗説にすぎない。

来週の木曜日にアメリカの高等学校の生徒は、AP (Advanced Placement Program) Japanese Language and Culture という、いわばアメリカ版センター(College Board)試験を受ける。先週と今週、頼まれて受験直前対策の講義をした。(私は出題するような偉い人じゃないから、試験対策を教えても構わない。予想とかしちゃう。)これに最高点の Grade 5 で受かれば、多くの大学が日本語日本文化の<大学の>単位として認めてくれる。

日本語だけではない。私立の高校からアイヴィーリーグなどを目指す生徒はラテン語も受験する。ラテン語は2種類あり、一つが Latin Literature で、もう一つが Latin: Vergil だ。Vergil(Virgil とも書く)とは古代ローマの詩人ウェルギリウス。彼の作品で勝負するラテン語の上級試験だ。そういえば、彼の『アイネイス』はほとんどの高校のラテン語教科書に載っている。このウェルギリウスの美しい古写本はどこが持っているか? ヴァチカンだよ。Vergilius Vaticanus という写本だ。文化を守り伝えるインテリのヤソ坊主たちは、中世にだっていた。

先日、60年ぶりにアウシュヴィッツユダヤ教徒の手書きのトーラー(クリスチャンが言うところの旧約聖書、とくに創世記、出エジプト記、レヴィ記、民数記申命記の律法5書)が奇跡的に見つかったという記事が、NYTやヘラルドトリビューンに載っていたが、ブログで書いていたポーランド系ユダヤ人もいた。ドイツ軍が来る3日前に、シナゴーグの堂守が大部分を墓場に隠したそうだ。一部はキリスト教の司祭に託してアメリカに持ち込まれていたが、これも奇跡的に発見された。

なぜ墓場なのか? やはりユダヤ人と共にユダヤ教も抹殺しようとしたナチの目から逃れる最適の場と考えたのであろう。そういえば、NHC=Nag Hammadi Codices(1945発見のナグハマディ文書)も墓場にあった。墓場ではないが、DSS=Dead Sea Scrolls=Qumran Library(1947年発見の死海文書)のクムラン洞窟は墓場のようなもの。人里離れた荒野の洞窟なら墓場も同然だが、終の棲家ではなく、復活の備えの場なのだろう。ヴァチカンはペテロの墓所西方教会の中央本部。こんなところに古代古典が大事にしまわれていた。文化を守るには最高に安全な場所だ。ヴァチカンの所有物に誰も異教徒の本だから焼けなんて言わないものね。

現代のアウシュヴィッツ律法写本の隠匿方法と動機を考えると、古代のNHCやDSSの隠匿の動機や方法が理解できるような気がする。そうすると、中共の馬鹿どものせいでチベット仏教大丈夫かな。心配だ。隠せ、隠せ。

中国の寺からは文献がだいぶなくなったらしく、今では東大のインド哲学仏教学教室が一番の物持ちと聞いたが本当かな。確かに、資料がたくさんあれば世界から研究者が集まるわけだ。イン哲は秀才しか行かないと聞いたが、ありゃ、確かに秀才しかやれん。