Comments by Dr Marks

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オバマのTough Luck な演説―で、玉虫色でまとめられるのかこの国を?

(DNC最終日)―世界で(多分)最も早い Dr. Marks の論評


珍しいことに、演説中に眠ったらしい。短い時間だが、いびきをかいて寝たと細君が言う。昨日はビル・クリントンを聞き逃し小さな文字のスクリプトで読むはめになって会場の雰囲気もわからなかった。今日は急いで食事を済まし、テレビの前に陣取ったが、満腹と単調さに不覚にも眠ってしまったらしい

しかし、一瞬のことで大半は聞いた。いつも悪く言っていた彼の英語の<発音>だが、今回はプロの指導があったのだろう。今までのうちではよかった。誉めてやる。しかし、その分、意識のしすぎか単調で眠かった。

“Eight is enough”(8年でうんざり)と言ったが、あれは確か8年前のブッシュの言葉のはずだ。後半で外交と Commander-in-Chief(アメリカ合衆国最高司令官)を意識して「わが党のローズヴェルトケネディー」などと言っていたが、冷戦を収束させた共和党レーガンを忘れてもらってはこまる

そんな揚げ足取りはいいとして、原稿作成チームの作戦なのだろうが、随所で玉虫色が目立った。原因は、民主党内での党内闘争のしこりにあるのだろうが、直接に独立系の有権者や、やや左がかった共和党員も引き込むつもりなのか、どちらにも取れる表現がめだった。例えば、人口人工中絶、同性婚、銃規制などは明確な方針をにごらせて逃げていた

アメリカは青色シンボルの国(民主党)でも赤色シンボルの国(共和党)でもない、アメリカ人みんなの国だということで、 “We all put our country first”(みんなでみんなの国をまず第一にする)ということも同様な趣旨だが、言葉にすれば当たり前すぎるので、もっとドラマチックに訴えてみればよかったのに失敗したな。

貧乏人へのリップサービスに終始するかと思えば、アメリカ市民が困難を覚えているすべての責任が政府にあるわけではないが云々などと、今から(もし政権をとったらの話だが)言い訳しているようなものだ。リップサービスといえば、貧乏人の税金を95%削減するなどと凄いことを言っていたね。もっとも、演説では、どの程度が貧乏人なのかはわからない。そんなにサービスばかりしていたら、国そのものが破産するぜ

また、演説中に、middle-class とはどの程度なのか明言していなかったからね。恐らくアメリカ人でも、自分が中産階級だと思い込んでいる馬鹿は多いから、それへのサービスだろう。このブログでもしばしば述べたように、middle-class とか well-to-do というのは、少なくとも10億円くらいの家に住んで年収は3億円くらいあるものだ。(槍玉にあがった例が、年収5億円で中流か、というものだったが、中流ならそのくらいのものだ。上流ではない。)

更に、盛んに、誰でも大学に行かせる、というようなことを言っているが、これは、誰でも下働きは嫌だからマネージャーになりたい、と言っていることと同じで何の現実味もない。むしろ、ビル・ゲイツみたいに大学の卒業証書などにこだわらないのがアメリカ人だ、と言って欲しかった。(一生懸命勉強したいからと、高校でもしっかり勉強するような人は大学にでも大学院にでも行ってほしい。しかし、大学だけが答ではないだろう。)

オバマは、アメリカ市民として、日本流に言えば負け組みの話のところで、“tough luck” という言葉を使った。日本語で言えば「ご愁傷さま」にでもなろうか。演説の最後で、聴衆が馬鹿だから、オバマは失敗してしまった。彼は、演説を、こう締めくくりたかった。Thank you, God bless you, and God bless the United States of America. 何しろ、最後のアメリカ」のイントネーションは、前のところでもそうだったが、ケネディーの真似だったから、きれいに決めたかった筈だ。

嗚呼、それなのに、それなのに、聴衆の馬鹿どもが、Thank you の後で大拍手。一瞬詰まったオバマは、騒音の中で申し訳程度に God bless you, and God bless the United States of America と弱々と付け足した。ご愁傷さま、Tough luck!