Comments by Dr Marks

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Exclusion and Embrace(排他と抱擁)―旧約聖書の遊女たち


Rahab the Harlot (A Biblical Beauty)

まさに今エール大教授の Miroslav Volf 先輩の著書の題名そのものだが、聖書を読んでいると、排他と抱擁の素晴らしいバランスだなと思う(ヴォルフの著作の文脈とは無関係な話ではあるが)。もちろん、人間が人間に対しての排他と抱擁であるが、人間と律法に関してもそうではないかと感じることがある。

旧約聖書レビ記18章には、「いとうべき性関係」がリストアップされているが、実際にはこの禁止されるべき関係が随所に記録されている。もちろん、忌まわしきこととして糾弾しているのがほとんどではあるが、不思議と何の咎めだけもなく淡々とした記述も少なくない。

新約聖書に視点を変え、マタイの福音書1章を読めば、一般の人にとって無味乾燥という意味では悪名高い人名の羅列がある。この中には、イエスの母を別にしても4人の女性が登場するが、「いとうべき性関係」を考慮すれば非の打ち所のない女性は一人もいない。しかも、この4人の女性は、イエスの血に繋がる grandmothers なのである。

4人とは、タマル、ラハブ、ルツ、ウリアの妻(後のダビデの妻バテシバ)である。Sex for sale の遊女(זונה)は創世記から登場する資本金いらずの商売女であるが、その後もたびたび登場する。例えば、ソロモン王の裁きで有名な子煩悩な母親二人はまさに遊女である(列王記3:16)。

タマルは街道娼婦のなりで舅ユダをだまして関係を持ったが、二重に罪を犯しているといえる。すなわち、金銭で男に体を売るだけではなく、夫の父親との間に子を宿してしまったのだ(創世記38章)。ラハブは、まさにプロの遊女そのものだった(ヨシュア記2および6章)。ルツの前にバテシバだが、彼女は遊女ではない。武将ウリアの妻であった。しかし、ダビデとの間の不倫の子(ソロモンの兄に当たる)を産むが、その子はすぐに死ぬ(サムエル記下11−12章)。後に、バテシバはダビデの妻としてソロモンを産む。

さて、最後にルツの話となる。ルツはルツ記の主人公であり、「いとうべき性関係」とは直接の関わりはない。ルツ記の中で、二人の爽やかな(?)性的関係をうかがわせる記述はあるが、不道徳な点は見当たらず、むしろ律法に厳しい夫ボアズとともにナイスなカップルなのである。

それでは、ルツは「いとうべき性関係」とは無関係ということになるが、関係はある。ルツはモアブの女だ。モアブの民の祖先は、アブラハムの甥ロトとロトの娘との近親相姦(実の父親と娘)によって生まれた男の子「モアブ」(「父より」の意)である。娘は遊女のごとくロトを酔わせたうえで関係を持った(創世記19章)。

イエス・キリスト系図は別にしても、イスラエルの民は、アブラハム+サラを始祖とする排他的集団ではなかった。排他的歴史の中でも、絶えず抱擁(外部との「性的」抱擁を含めて)を繰り返してきたのである。