Comments by Dr Marks

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グッドエイカー vs. ドコーニック

ここで詳論するのは難しいが、簡単に。やはりグッドエイカーの議論はまだ完成していないわけでいろいろな指摘がなされた。例の編集疲労の理論に関しては、ユダヤ教側の書記の習慣からありえないのではとのフロアからの意見があったが、どのようなステージからなのかで違うし、実際に新約聖書の場合は事実あるわけだからフロアからの意見のほうがこのケースには合っていないかもしれない。

彼に対する批判の最大のものは、彼の発表の後でなされるレスポンス(発表の後にあらかじめ批判者が批判原稿を書いて発表する形式)を担当した April DeConick による攻撃だった。しかし、これはエイプリルおばさんの持論である聖書形成段階の仮説(1口伝段階:70年以前、2記者段階:70−100年、3神学的教会的発展段階:100−135年)が衝突したのであるから、どちらが正しいかは厳密な検討を待たなければならない。

April DeConick は、トマスの福音書でさえ、70年以前に核ができていたという考えだから、マルコやQ(彼女はどちらかというとQ派)の原初的なものは70年以前であることを認めるが、グッドエイカーのようにエルサレム落城を含む書物としての完成は70年以後であると考えるから、この点だけはグッドエイカーと一致する。

エイプリルおばさんの理論は、彼女が自分で宣伝していたので、私は何か言う前にそれを読むべきなのだろうが、今のところ読む気はない。なにしろ、彼女は口伝は正確には伝わらないというような考えを堅く持っている主だ。その根拠だが、現在の心理学者の実験で口伝えの伝言ゲームをすると、何十人もの被検者の誰も正しく伝えることができなかったという例から、口伝は一つとして決まりきった言い回しを伝えないはずだということらしい。

いつも言うように、現代人のコンテクストと古代人のコンテクストを一緒にしてはいけない。古代人の職業的な語り部の正確な再現力を無視してはいけないだろう。せっかくだから、彼女の最新のお薦め論文を紹介しておく。(買うほど重要ではないが、私もいずれ図書館で読んでだけはおくことにする。)

April DeConick, "Human Memory and the Sayings of Jesus: Contemporary Experimental Exercises in the Transmission of Jesus Tradition," in Tom Thatcher(ed.), Jesus, the Voice, and the Text: Beyond the Oral and the Written Gospel (Waco: Baylor, 2008) pp. 135-179.