Comments by Dr Marks

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トム・クルーズのValkyrie(ヴァルキュリー)を下の写真の町で観たよ

路面電車が通り、噴水が広場にあって、無理矢理人工的に作られたヨーロッパ風まがい物の街角。しかし、青空はカリフォルニアの本物。素敵だよ。

土曜日の朝に例の白いセダンの定期検査に行った。朝から行く予定であったのはラッキーだった。出掛けようとしたら low tire(低空気圧)の赤マークが出ている。持ち主がアフォやから車は賢い(intelligent)ものに限る。パンクする前に知らせてくれる。外から視認してもわからない程度なのに知らせてくれるのだ。だから車屋までは運転オケー。

1時間少しの定期検査の間に待合室で無料の朝食(お菓子やコーヒーといったほうがいいかもしれないが今日は果物がなかったから不況のせい?)を食べ、マッサージ椅子に座ったりインターネット検索で時間を過ごしていたら、近くの映画館で Valkyrie が始まる時間であることを知った。封切館はどこでもそうだが、だいたい10ドルだ。よし、行こう。

英語でValkyrieというのは北欧の神話であり「殺されたものを選ぶ者」という意味だそうだが、ドイツ語圏ではWagner*1を通じてヴァルキュール*2として親しまれている神話だ。その名前を映画の題としたわけは、ナチス・ドイツ政権下の1944年に実行されたヒットラー暗殺未遂事件Operation Walküre(オペラツィオーン・ヴァルキュール=ヴァルキュール作戦)が主題であるからだ。

主役はトム・クルーズ扮するClaus Philipp Maria Schenk Graf von Stauffenberg(クラウス・フィリップ・マリーア・シェンク・グラーフ・フォン・シュタウフェンバーク、うふぇカトリックで貴族の名前は長いや)大佐だ。作戦時36歳だった。彼は、我々の業界人だったボンヘッファー(Dietrich Bonhoeffer、ヒットラー暗殺を企てて処刑されたドイツの神学者)とほとんど同年代である。なお、ボンヘッファープロテスタントだが、シュタウフェンバークは名前によってもわかるようにカトリックだ(男なのに女の名前が入ってるだろう)。

実は、車屋でネット検索しているときに、この映画の評判がよくないことは知っていた。専門家の評価がB−であり、一般人の評価がBだった。その理由は自分で見てみてよくわかった。後味がよくない。初めからわかりきったことではあったが、皆が何かを期待したはずだ。しかし、何もなかった。

わかりきったこととは何かわかるだろう? まあ、その前に、この映画の冒頭は珍しくトム・クルーズがドイツ語で自分(Stauffenberg)の陣中日記を読上げるのだ。結構、上手なドイツ語だったよ。そして、途中から英語に変わるという趣向だ。その陣中とは、北アフリカ戦線で、彼はこのとき右手と左目を失う。回復して隻眼の大佐として軍に復帰する。まあ、イスラエルのダヤン将軍のようなものだな。黒い眼帯をして仕事をするが、ヒットラーなどに会うときは義眼を入れる。(実は私は事実上の隻眼なのだが、生まれつきなので不都合はない。しかし、後で片目になった人は大変なそうだ。)

この作戦は、映画で観てもわかるように、よくできているようで杜撰な作戦だった。だから、失敗した。失敗したことを映画にしたところで成功するはずはないだろう。観ていてフラストレーションが溜まり、気分がよくないのだ。それに、Stauffenberg大佐らはドイツの旧勢力であり、ヒットラー暗殺の意図も民主主義とヒューマニズムというより、ドイツ帝国の復興のように思えてならない。ユダヤ人への蛮行も冒頭の陣中日記(上述)で少し触れたにすぎない。

映画館を出るとき、ユダヤ人の老婆ががっかりした様子でよたよたと出てきたので、ドアを開けて待っていてあげた。そうそう、映画の最後で救われたのは、同じ貴族の出身である彼の奥さんニーナ(Nina)は長命で2006年まで生きていたと字幕が入ったことだ。享年92歳だったそうだ。5人も子供を産む女性は強いのだろうか。なお、彼らの長男は新生ドイツ軍の将軍になって今も存命らしい。

*1:ワーグナー、独ヴァーグナー、ドイツ語でもこの場合 g は「ク」でなく「グ」、ner は「ネル」でなく「ナー」。

*2:Walküre の終わりのre は「レ」ではなく、ドイツ語でもこの場合は「ル」。