Comments by Dr Marks

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忙しいのにナターリアばあさんと2時間

忙しいときに限って呼び出しだ。前からお前に上げる予定の絵が荷物の中から出てきたから取りに来いという命令。年寄りからのこういうリクエストというのは、後回しにしてはいけない。いつ死ぬかわからない人の望みはできる限りかなえてあげる。

2年ほど前にヴァイオリン弾き兼音楽の先生の連れ合いを亡くしてシニアホームで一人暮らし。子供はいない。なにやら自分の絵だというものを箱から出してきてサインするから持っていけと言う。持って行ったら自分で飾るか売れと言う。いったい幾らで売れるんだと聞いたら、50セントでも、25セントでも必ず売ること、捨てては駄目だとのたもう。

ゴミばかり(笑)。一つだけいいのがあった。他にもう一つあったが、タッチが違う。「これは?」と聞いたら、彼女の絵の先生が書いた奴だって。密かに心の中で大笑い。さすがにプロのもの。気に入ったので一応それももらってきた。あと、未使用キャンヴァス1枚はもうけだから、うふふ。

そういえば、彼女もピアノ弾きでジュリアードの出だ。しかし、もうピアノは弾けまい。年を言わないが90は越えている。しかし、音楽家というのはリズミカルに話す。話の内容はボケてはいないし、しゃべり方も老人特有の話し方ではなく、高校生か大学生くらいのスピードで話す。お陰で2時間も付き合ってしまった。早々に帰るのは気が引けたことも確かだが、話も面白かったからだ。

彼女の父親は、オーケストラの指揮もした音楽家だ。要するに音楽一家なのだが、酒も強く、かなり引っ掛けた上でも、何事もなかったように真っ直ぐ指揮台に上り役をこなしてしまったそうだ。それほど酒に強い。彼女の名前からわかるだろうが、親父はロシアからの移民だ。酒は強いわけだ。

一応彼女もピアニストだがそれほどではなかった。しかし、旦那のほうは立派な演奏家なので演奏旅行に出ることが多い。暇を持て余した彼女はCIAに応募した。すると、流暢なロシア語が買われてスパイ要員として採用されてしまったそうだ。そのような時代の話らしい。

そんな話を面白そうに次から次へと話すので、切りがないからまた来ると言った。いや、言ってしまった。しまった! 行かざあなるまい、いつかまた、とほほ。