Comments by Dr Marks

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行き場のないこの世の旅路も辛いもの―しかし、歩め

先週のL.A.タイムズ(Los Angeles Times)に「行き場のない老移民者(No Country for Old Immigrants)」という記事があり、メッカに向かって祈る老夫妻の姿が印象的だった。彼らは3年前にアメリカにいる娘を頼って移民手続きをしてパキスタンから入国してきた。娘さんと、そのお婿さんと一緒にロスアンジェルス郡のアティッジア(Artesia)という町に住んでいる。

近頃は国際的に(日本でもアメリカでも)息子と住む親はむしろ少なく、娘と住む親のほうが多いような気がする。男というのは結局のところ舅や姑と暮らしても気にせず、やさしい人が多いのかもしれない。それはともかく、合法的に移民が認められたということは、少なくとも5年から3年前なら娘夫婦は経済的に豊かだったはずだ。働き口のない老人二人をアメリカ政府に迷惑をかけずに養えるという保証があってはじめて移民が認められるからだ。

パキスタン人の娘夫妻は身を粉にして働いたのだろう。両親を住まわせるに十分な一戸建ての家も持っている。しかし、近頃は様子が変わったらしい。モーゲジ(mortgage、住宅ローン)さえ払えない状態になった。この先も払えなければ一家で家なしになる。老夫婦は法的移民(多分、俗称グリーンカードといわれる永住権ビザ)なので合法的に働くことができるが、英語が不自由な70歳以上で、しかもこの景気停滞では働き口などない。

裏庭に二人して座ってアラーに祈る日々というわけだ。今更、後戻りできる国も彼らにはない。娘夫妻の国にも居場所はなくなりそうだ。どうか、娘と婿殿が再び豊かになりますように、と祈っているのか、あるいは娘と婿殿にこれ以上世話にならなくてもいいように早く天国に帰してください、と祈っているのか。今のところ三つの国の(天国を含めて)どこにも行き場はないのかもしれない。ただただ一心に祈るしかないのも辛いものだ。