Comments by Dr Marks

出典を「Comments by Dr Marks」と表示する限り自由に引用できます

No. 6.

ケニョン先生の『チェスターベアティ』の値段とカラー印刷

例の不便さの中でフラー所蔵のチェスター・ベアティの一部を自室に持ち込んでいる。私は長らく出版の世界にいたので、この本の写真影像は何によるものなのかすぐにわかった。多分、大昔に東大の図書館で見たときも気づいていたはずである。コロタイプ製版だ。とても贅沢な写真印刷であまり部数は刷れない。

虫眼鏡で見てすぐにわかる特徴は現在の写真製版にかならずある網点がない。それよりも独特の美しさですぐにわかる。1930年代の印刷なのに今なお細部まで明瞭であり、色もあせていない。写本の表(recto)なのか裏(verso)なのかなどは、パピルスの繊維の一本一本まで見えるから間違えようがないほどだ。

さて、少なくとも南カリフォルニアではフラーだけが所蔵しているのだが、面白い鉛筆書きを見つけてしまった。第一分冊の本文の第一ページの欄外に購入価格のメモがある。これは当時の図書館員がよくした習慣だが今は見ない。その値段はセットで152ドル飛んで2セント。購入日は1948年7月14日となっている。戦後の学校だし、戦後になってから買ったわけだ。

まあ、驚いた。発足したばかりの学校なのにいいものを大金を出して買っている。コーヒーが5セントの時代だ。結構いい大学でのサラリーマンの年収が4千ドルくらいで、立派な一軒家が1万ドルちょっとで買えた時代だ。その時代の152ドルがどれほどのものかは想像できよう。非常に高価な本だったわけだ。