Comments by Dr Marks

出典を「Comments by Dr Marks」と表示する限り自由に引用できます

ユダヤ人であることは掛かりが掛かる:不景気は宗教に危うし

ユダヤ人であろうとすると経費が掛かって仕方がない。この場合のユダヤ人であることとは、もちろん「アメリカにおいて宗教的にユダヤ人であること」を言っているのであり、人種的に日本人であることやイギリス人であることと、ユダヤ人であることが、アメリカ生活において経費の相違となって現れるはずがない。本日宅配の Newsweek (July 19, 2010) でリサ・ミラーという女性記者が標題のようなテーマで書いていた。いろいろ参考になったので、箇条書き的に紹介しておこう。

どんなことが宗教的にユダヤ人であれば経費が掛かるかといえば、要するにシナゴーグに所属すると約束献金がいるし、ユダヤ教学校にも通わせるなら特別の教育費も掛かる。葬儀やバル・ミツバなどの行事にもそれなりの大金が掛かる。しかし、彼女は葬儀や行事には触れておらず、約束献金ユダヤ教学校についてだけ書いていた。

アメリカのユダヤ人というのは、最も貧乏なのが超が付くものを含めた正統派(オーソドックス)であり、保守派(コンサーヴァティヴ)や改革派(リフォーム)は比較的裕福だ。保守派や改革派がどうして正統派および超正統派(アルトラ・オーソドックス)よりも金持ちかという背景には、もともと彼らが裕福な西欧から来ているということもあるが、彼らの価値観の違いにもよる。なお、もっとリベラルだったりユダヤ教の信仰を失っているユダヤ人はこの際、考慮に入れない。もちろんキリスト教などに改宗した者も宗教的にユダヤ人ではないとする。

そういった意味での(すなわち宗教的な意味での)ユダヤ人は、アメリカで1990年に310万人であったのに、2008年には270万人に減少している。その原因は、現代人の世俗化などいろいろあるが、異民族との結婚がますます増え、結婚するユダヤ人の50%がユダヤ人同士でないことも大きいだろう。このミラー記者ユダヤ人以外と結婚しているそうだ。しかし、異民族と結婚したからユダヤ人でなくなるかというと必ずしもそうではない。ユダヤ人の母親として、夫が許すなら(夫がユダヤ教に改宗するならなおさら)、子供はユダヤ教徒として育てるケースも少なくない。

ユダヤ教徒としてアメリカで生活するならば、経費がかさむのは、不思議でも何でもないが、一番貧乏な正統派や超正統派だ。シナゴーグへの約束献金も平均的には年間1,100ドルだが、3,000ドルを超えるようなケースが正統派などにはある。彼らは、シナゴーグの経費のみならず、私立のユダヤ教系の小中高に通わせる経費を含めれば、子供が3人と夫婦の年間総支出は、5万から11万ドルになるそうだ。なお、キリスト教会の場合もユダヤ教全体の平均である1,000ドルくらいが平均の約束献金となっている。

面白いのは、キリスト教会はまず祈りに招いてから献金なのに、ユダヤ教会はまず献金してから祈りなのだそうだ。ユダヤ教徒として過ごすからには、まず金を出せということになる(pay-to-play system)。確かに彼らは平気で金をせびる。金、金、かね、かね・・・。しかし、ハバッド運動の超正統派は、キリスト教会的らしい。初めから金とは言わない。まず、祈りや踊りに参加させることが先で、金は後になるそうだ。確かに、エルサレムで会った超正統派も、余が「金出せ」を無視していたら、勝手に(無料で)余のために祈っていたから、余も「アーメン」と言わざるをえなかった。

まるで、福音派とかペンテコスタルのキリスト教徒のようなアプローチだった。あっ、「アーメン」ってもともとユダヤ教の習慣だからね。祈ったり、祝福されたら「アーメン」って言うんだよ。そうだな、これだけ不景気じゃ、まず金出せじゃユダヤ教もお終いだ。どうやって生き延びるか、どうやって新しいユダヤ教徒を獲得するか、そんなことを考えたら、キリスト教のように金は後回しでも、まず祈ってやらざるをえないのだろう。不景気はユダヤ教にも厳しいわ。