二つのマホメット本(前編:小説、ディーパック・チョプラ著『ムハッマド:最後の預言者物語』)
Muhammad: A Story of the Last Prophet
- 作者: Deepak Chopra
- 出版社/メーカー: HarperOne
- 発売日: 2010/09/21
- メディア: ハードカバー
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彼がどういう生涯であったかは、世界第二の宗教の創唱者にしては、あまり知られていない。仏教者がゴータマを知らないように、キリスト者がイエスを知らないように、ムスリムもマホメット(ムハッマド)をよく知っているとは限らないのだから、イスラム教を知らぬ者がマホメットを知るはずがない。従って、マホメットとイスラム教の双方を少しなりとも知る手立てとして、本書は手頃な良書だと思う。
著者ディーパック・チョプラの作品は既に何冊か日本語に訳されているが、いわゆるオータナティヴ医学ものとかトンデモ的な為せば成る本であるが、どうしてそんな本だけ和訳されているかは、この著者の過去と合わせて説明が必要だろう。
チョプラはインド生まれの医師であり、この本でもウィキペディアでも若いときのモテモテ写真を使っているが、実際は今月22日に64回目の誕生日を迎えるボテボテおじさんである。父親はインドの大病院の院長で実弟はアメリカ東部の医科大学教授という医者一家だ。ただし、父の父、祖父は英国軍軍人。
かように西洋文明に親しむ環境にあったが、祖父の不治の病の治療をきっかけに宗教的民間療法に興味を持ち、あるグルに師事し後には片腕となる。その関係で書いた本の一部が日本語に訳されているというわけだ。ところが、その後彼はその教団からグルにとって代わる工作をしていると疑われ離脱する。
もともとれっきとした医者で、内分泌学を専門とする大学講師であったから、グルと分かれてからはカリフォルニア州の医師資格も取得して医師として活動している。(アメリカは弁護士と同じで開業するには各州の資格が必要。彼はマサチューセッツ州の資格を1973年に、カリフォルニア州は2004年に取得している。)著作も学者らしく落ち着いたものとなり、大手の出版社から『ブツダ』と『キリスト』を出版し、今回の『ムハッマド』で三部作となる。
内容だが、別のイスラム学者の書いたものと処々で異なるのは当然のことだ。例えば、マホメットにとって最初で重要な15歳年上の結婚相手ハディジャ(カディジャ)との関係などはだいぶ違う。結婚した年が5年くらいずれてるが、まあ異論もあることだし、気にしない気にしない。それと、著者はアラビア語はできないから気息記号などは無視して書いている。もちろん理由は英語的でないからとちゃんと弁明している。また、クルアンと書かずにコーランと書くのも彼の趣味。(余がムハッマドではなくモハメッドとしたようなものだ。)
アラブの言い回しで「ラバだってメッカには行けるが、それが巡礼になるわけではない」というのがある。実際、この小説の冒頭の言葉なんだけど、この本を読んだってイスラム教徒になるわけではないから、暇つぶしに読んでみるのもどうだろう。まあ、日本語で読みたい人のために日本語で出版したければ、余のところに連絡してくださいな。