Comments by Dr Marks

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イサクだろうがイシュマエルだろうがかまわないが、エホヴァの神にしろアラーの神にしろ、アブラハムを試すなんて意地悪じゃないか? なにー、そうでなく悪魔にだまされたってか? 神がだまされる? (「死海文書」の世界)


「主の山には備えあり」(創世記22章)のアブラハムと息子イサクの話のイスラム教側のヴァージョンをかつて紹介した(http://d.hatena.ne.jp/DrMarks/20101112/p1)。イシュマエルではなくもちろん息子はイサクなのだが、「死海文書(Dead Sea Scrolls)」(http://en.wikipedia.org/wiki/Dead_Sea_Scrolls)には、正典の旧約聖書創世記にはない話がある。もちろんコーランにもない。

神が全能であれば、なにもアブラハムの信仰など試さなくてもいいはずだ。神には先刻ご承知のはずなのだから。これは、そうではなくて、むしろ、神が意識的に行った試されるアブラハム(とイサク)への信仰教育であったと見るべきであろう。

しかし、ヨブ記のヨブの場合もそうであるが、神と人間の間に悪魔が介在していたとすればどうであろうか。ヨブ記においては神がヨブを試すことを悪魔に許す。悪魔は勇んでヨブをさまざまに苦しめ試すわけであるが、最後はヨブの信仰が悪魔の悪巧みに勝利する。同様に、神が積極的にアブラハムを試したのではなく、実は試そうと持ちかけたのは悪魔であったという話が「死海文書」にあるのだ。

ヨブ記の悪魔の名前は<サタン>だが、「死海文書」における悪魔の名前は<マステマー王子>と呼ばれている。この話があるのは4Q225 であるが 4Q226 にも話は続いている。4Q225 とか 4Q226 というのは「死海文書」の関連する断片一まとまりの番号だ。「死海文書」は11の洞窟(cave)から発見されていて4Q というのは4番目のクムラン(Qumran)洞窟という意味。225はその洞窟の断片225番という意味。

他にこの断片には(欠落があり確定した読みとは言えないが)イサクが父アブラハムに向かってけなげにも「しっかりと私を縛ってください」と励ます部分がある。英語なら “Tie me well” または “Tie me tight” となるだろう。そんで、冒頭のヨウツベとなるわけ。ちゃんちゃん。