Comments by Dr Marks

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アイザック・シンガー程度でも注釈だらけになるだろうな。一種の歴史小説だもんね。(種々の超正統派やそれぞれの風俗なども、例えばシュトレイメル帽など)


イーディッシュ文学においては、歴史的、地理的、宗教的な基礎知識がなければ何も面白くない。予備的関心がない、あるいは予備知識のない文学作品は、すぐれた内容であれば私小説が「私的真実」を出でて「普遍的真実」になるように、まったく面白くないということはないが、予備知識ないし基礎知識がなければ、面白みも半減することは明らかだ。

シンガーの作品を読んでいると、聞いたこともない超正統派の分派が出てきたり、馴染みのない地名が出てくる。地名は地図で探そうとしても難しい。イーディッシュでの記述が他の言語では違っていることが多いし、そうでなくても国土の所属が変わったり、政権が変わっただけで変更されるので、それぞれの時代に歴史地図に当たらなければわからないことが多い。例えば、今のリトアニアなどは小国だが、ポーランドウクライナまでリトアニアの時代があったわけであるし、ソ連政府などはやたらに地名変更をした。この辺りは、翻訳にあたっても、余が困難を覚えるところである。

宗教的な習慣については、余の場合、もともと宗教を専門にしていることと、まるでイーディッシュ文学の舞台のようなところに暮らしているわけだから、かなり楽である。超正統派(あるいは敬虔派ともいう)といえば、今ではニューヨークとロスアンジェルスが、むしろ本場なのである。余が今まで近所の写真として紹介したような暮らし向きや風俗が、そのまま小説の舞台といってもいい。街の風景の例はこちら→http://d.hatena.ne.jp/DrMarks/20081002/1222920454

この暑いロスアンジェルスイスラエルでも、毛皮帽(シュトレイメル、shtreimel)の超正統派をよく見かける。更に、夏でも長い外套(カフタン、kaftan)を着ているのだ。見ていて暑苦しく思うが、彼らは平気なのも不思議だ。普通の毛皮帽はシュトレイメルでいいが、変形はいろいろあり、特に高さがあるシュトレイメルをスポディック(spodik)と言っている。この毛皮帽の下には普通のキッパ(kippa)またはヤマカ(yamakah)と言われる男性用被り物をするのが正式だ。キッパ(ヤマカ)はこちら→http://d.hatena.ne.jp/DrMarks/20080401/1207060900

毛皮帽はヴェルヴェットの上に毛皮をはった物だから高価である。物によっては5千ドルくらいする。花嫁の父が婿殿のために作って結婚式にプレゼントするという習慣もある。そのとき本物と安い素材でできたものの両方作り、安物のほうは雨の日や普段用で、大事なときには高価なほうを着用するということもあるらしい。本来は聖職者(ラビ)用であったが、今では(というかだいぶ昔から)既婚の男性であれば誰でも着用してよい。