Comments by Dr Marks

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No. 5.

コメントにならないコメント−21 (ヴァメーシュの『イエスの復活』「聖書時代とポスト聖書時代に先行したイエスの復活と昇天のひな型」)

ギーザ・ヴァメーシュはあくまでも英語読み。今日、メリーH(実際にメリーは一杯いるから「メリー・エイチ」と呼んでいる)ルーマニアン・ジューのおばさんがゲヴィッチを持ってきたのでハンガリー語の発音を聞いてみた。

ルーマニアン・ジューがどうしてハンガリー語かというと、旦那さんがハンガリアン・ジューだから結構ハンガリーの言葉をしゃべる。今までHの中身は言わなかったが、どうせカタカナなら、あの旦那が検索で見ないから言ってしまうとハーシコヴィッツだ。ヴァメーシュと同じハンガリーの貴族階級ユダヤ人。腕に収容所での刺青がある。

答は、「ゲーザ・ヴェアルムーシュ」だった。終わりのところが英語風の「メーシュ」とはだいぶ違う。「モーシェ(モーセ)」のようにも聞こえる。

ポスト聖書時代? 日本語でもポストモダンとかポストコロニアルなんて言うんだから、"postbiblical" を「ポスト聖書時代の」とやってみた。この言葉をどちらかというと曖昧な概念である "postchristianity" と同義に取る人がいるが、ここでのヴァメーシュの用例はれっきとした学術用語と思っていただきたい。

簡単に定義すれば、現在のヘブル語旧約聖書正典がおおむね出来上がった後の紀元前330年ごろから紀元後200年くらいの間に成立した主としてユダヤ教側の新しい文書が出てきた時代を指している。

この頃の文書の特徴はギリシア語である。最大のものはギリシア旧約聖書七十人訳聖書と言われ、エジプトのアレクサンドリアで編纂されたものである。翻訳であるから、ヘブル語旧約聖書とは微妙に違う。新約聖書の記者たちは、このギリシア語訳から旧約聖書を引用している。なお、ヘブル語旧約聖書の正典選定は、紀元95年頃にパレスチナのヤブネ(Yavne, ギリシア語形 Yamnia)におけるユダヤ教学者の会議で行われた。ギリシア語で書かれた「ベン・シラーの集会の書」など多数の現存文書がある。

ともかくこの章の内容は4人の人物に関することであって次のように整理できる。

エノクとエリアの二人はヘブル語の聖書時代から死をもって人生を終えなかった例外である。死んでいないのであるから、復活の原型というよりはイエスの復活後の「昇天の原型」と言ったほうがいい。しかし、覚め男というか冷め男の典型のヨセフスなんかは『イスラエル古代史』の中で昇天とは言わず、ただいなくなっただけだ、と言っているし、七十人訳の聖書などは「あたかも天に上げられしごとく」などと余計な挿入をしている。罰当たり訳め。

ただし、ヘブル語聖書の中でもエリヤは、弟子のエリシャとともに、死んだ二人の若者を、死の直後ではあったが生き返らせることに成功している。もちろん新約聖書では、イエスパウロ先生さえも死の直後の蘇生に成功しているが、いずれも生き返った者のその後は不明である。多分、また死んだのね。(←お前こそ罰当たりだよ。)

しかし、ヨセフスや七十人訳以外のポスト聖書の文献によると、この二人のしたことに尾ひれが付いているのも面白い。例えば、エノクは天に行って神様の秘書官になっただの、エノクは365年地上で生きていても良いことばかりしたのではないから、ちょうどいいことをしていた直後にこれ以上悪さをしないように神様が連れて行っただの、想像逞しく書かれている。

モーセとイザヤが復活したとか昇天したという話は、教会で聞いたことはないだろう。当たり前だ。聖書正典には書いてないもん。実は、この二人が前の二人に加わって計4人となるのだ。この二人の復活(昇天)話があるのはポスト聖書文書で、その名もずばり「モーセの被昇天」と「イザヤの昇天」だぜ。凄い。

モーセは旧約正典の申命記の34章では、ピスガの山の頂で約束の地を最後に見た後、モアブの谷に埋葬されたのだから死んだはずだ。死んだはずだよお富さん〜♪ だから、復活して昇天させられるらしい。お富さんじゃなくて、ピスガの賛美歌を入れておく。英語では Sweet Hour of Prayer という曲なのだが、ピスガが出てこないので「静けき祈りの」という日本語賛美歌にした。3番目の歌詞にピスガが出てくるよ

もっとも「モーセの被昇天」の終わりの部分は残念ながら欠けている。新約聖書のユダの手紙では大天使ミカエルが悪魔とモーセの死体を取り合ってくれるし、ポスト聖書文献である「偽ヨナタン・タルグム」はミカエルばかりかガブリエルという二人(と数えていいかどうかわからないが)の大天使に加え、天使メタトロン、ヨピエル、ウリエル、イェピピアーが一緒になって宝石だらけピッカピカのモーセのベッドを運ぶ、更に教父オリゲネスの知るところによると、この紀元1世紀の文献には、やはりその後天に昇ると書いてあったそうだ。

さて、イザヤだが、聖書には埋葬どころか彼の死については何も記されてはいない。しかし、彼は悪しきイスラエルの王マナセから逃げて、杉の木の洞穴に隠れていたところを、杉の木ごと真っ二つに切られて死ぬらしい。しかし、どっこい、やはり天使が出て来て天国に連れて行ったとさ。めでたし、めでたし。

ということで、今日はここまで。ヴァメーシュのこの章は、ポスト聖書文書をすべて略号で書いている。この本をお持ちで正式名が知りたい人はご連絡ください。正式名がわかっても日本語訳があるかどうかは調べてみなければわかりませんが、お気軽にどうぞ。