Comments by Dr Marks

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No.2.

イーディッシュ語の実例(『僕のハイエ姉さん』という歌から)


この歌は典型的なイーディッシュ・ソングだが、第二次世界大戦後の比較的新しいものだ。ここに引用した YouTube は多分、私の判断では、一番使用人口の多いポーランド系イーディッシュ(ポイリッシュ)であろう。したがって典型的なイーディッシュであると言える。発音は聞いてわかるようにドイツ語に近いし語彙もそうだ。

『僕のハイエ姉さん』と訳したイーディッシュ原語の発音は片仮名で表わせば『マイン・シュヴェスター・ハイエ』である。また、第一行を原語の発音(Y)とそれをドイツ語に訳してみた発音(D)で比較してみるなら以下のようになる。もちろん、それぞれの発音の違いは文法の違いをも反映している。

(Y)マイン・シュヴェスター・ハイエ・ミットゥ・ディ・グリーネ・オイゲン
(D)マイネ・シュヴェスター・カイエ・ミットゥ・デン・グリューネン・アオゲン

ドイツ語に堪能であれば、文法の違いに惑わされることはあっても、大意がすぐに聞き取れるはずである。つまり、ドイツ語とヘブル語既習者にとっては、懐かしくなるような言語であると言っていい。なお、Mayn Shvester Khaye でYouTubeを検索するなら、いろいろな歌手が歌っているので、それぞれの発音の微妙な違いを経験できるであろう。

この歌の作詞者はビネム・ヘラー(Binem Heller)作曲はハヴァ・アルバステイン(Chava Alberstein)。どうやら、ヘラーの実話のようだ。彼はユダヤの国、すなわちイスラエル在住。(上の独訳と下の和訳はマルクス博士、一応韻を踏んでたりして・・・。)

僕のハイエ姉さんは緑の目
僕のハイエ姉さんは黒いおさげ髪
ハイエ姉さんが僕を育ててくれた
スモッチェ通りの崩れた階段の家で


母さんが夜明けに家を出るときは
空の明かりはまだわずか
母さんは店に出て働いた
ほんの僅かな小銭を稼ぐため


ハイエ姉さんは弟たちといてくれた
弟たちに食べさせて面倒みるために
姉さんは素敵な歌を歌ってくれた
日暮れにくたびれたチビたちの側で


僕のハイエ姉さんは緑の目
僕のハイエ姉さんは長い髪
ハイエ姉さんが僕を育ててくれた
まだ十歳にもなっていない姉さんなのに


姉さんは掃除、洗濯、料理もした
僕らの小さな頭も洗ってくれた
姉さんが忘れていたことは自分が遊ぶこと
僕のハイエ姉さんは黒いおさげ髪


緑の目の僕のハイエ姉さんは
トレブリンカでドイツ人に焼き殺された
しかし僕は今ユダヤの国にいる
姉さんを覚えているたった一人として


イーディッシュで詩を書くのは姉さんのため
僕らのあの悲惨な日々に
神様の大事な娘の姉さんは
天国で神様の右に座していた

彼女のためになぜイーディッシュで書くのか。十歳に満たなかった彼女は、イーディッシュ語しかわかるまい。