Comments by Dr Marks

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No. 2.

『阿呆のギンペル(Gimpel the Fool)』 2


 僕は孤児だった。僕を育ててくれた祖父だって、ほとんど棺桶に片足突っ込んでいた。だから、次に、あるパン屋に連れて行かれた。そこでどんな生活をさせられたと思う! 麺一束を焼きに来るご婦人も娘たちもこぞって、少なくとも一回は僕を馬鹿にしてみなければ気がすまない。「ギンペル、天国でお祭があるよ。ギンペル、ラビの先生が7か月で子牛を産んだって。ギンペル、子牛が屋根の上を飛んで真鍮の卵を産んだぞ。」宗教学校の生徒があるときロールパンを買いに来て言った。「おい、ギンペル、お前がパン用シャベルで擦りながらここに立ってる間に救い主が来て死人はよみがえるぞ。」僕は「どういう意味だ。誰も羊の角笛を吹いていないじゃないか」と聞いた。彼は「お前つんぼか」と言った。すると、みんなが、「俺たちは聞いた、俺たちは聞いた」と泣き出した。するとロウソク浸しのリーツェ小母さんが入ってきて、かすれ声で叫んだ。「ギンペル、あんたの死んだ父ちゃんと母ちゃんが墓の中から起き上がって、あんたを探してたよ。」
 本当のことを言えば、そんな馬鹿げたことが起こっちゃいないことは重々承知していた。しかし、だからといって、彼らが言うとおりにしないわけにもいかないので、毛糸のベストを羽織って外に出てみた。たぶん何かが起こるだろう。外を見たからといって、損にはならない。すると、まあ猫笑いが始まった! そのときはさすがに今後何も信じないと誓った。しかし、思いどおりにはいかない。彼らは僕を、「小さな印から大きな出来事を推し量ることができない奴だ」と言ってごまかし続けた。
 何か知恵を授けてもらおうと思ってラビの先生のところに行った。彼は言う。「一時間の間邪悪な者でいるよりも生涯を阿呆で過ごしたほうがましだと書いてある。お前は阿呆ではない。彼らが阿呆なのだ。なぜなら隣人に恥をかかせるような者は天国で己を見い出すことができないからだ。」それなのに、そのラビの娘が僕を取っ捕まえた。先生の家を出るとき娘が僕に「壁にまだキスしていないの」と聞くのだ。僕は「してないけど、どうして」と答えた。彼女は「それが律法だからよ。訪問するたびにするべきものなのよ」と言うではないか。まあ、壁にキスしたからといって害になるわけではないので、そのとおりにした。すると、彼女は突然笑い出した。見事な嘘。僕を申し分なくひっかけたわけだ。
 別の町に出かけようとしたときだ。あいにくその頃は誰もがお見合いに夢中だった。彼らは僕を追いかけてきて、すんでのところで上着の裾を引きちぎるところだった。僕にのべつまくなしに話しかけるので、僕の耳は唾だらけになった。その女は貞淑であるはずがないのに、彼らは純粋な処女だと言うのだ。彼女はびっこを引いたのに、控えめだから慎重に歩いているだけだと彼らは言う。彼女には私生児もいるのに、そいつはまだ小さい弟だとも言った。僕は、「君たち、時間の無駄だよ。僕がそんなあばずれ女と結婚するもんか」と言ってやった。しかし彼らは、憤然として、「何という言い草だ! 自分自身を卑しめるつもりか。お前をラビのところに連れて行って、彼女に不名誉な呼び名を与えた咎で罰金を払わせるぞ」と脅した。それで、そう簡単に彼らから逃れることはできないと悟り、考えた。彼らは僕を絶対に騙してやろうと決心している。しかし、結婚すれば夫のほうが主人となるのだ。もし、彼女がそれで構わないのであれば、僕のほうも問題はない。それに、人生を無傷のままに過ごすということは、期待すらできないだろう。
 (続く) いやはや、これからギンペル君どうなっちゃうのかね。