Comments by Dr Marks

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No. 3.

『阿呆のギンペル(Gimpel the Fool)』 3

 僕は砂地に建っている彼女の土壁の家に行った。悪ガキどもは叫びながら歌いながら僕の後に付いて来た。彼らは僕を熊でも虐待するかのように振る舞った。しかし井戸のところに辿り着いたときには皆いっせいに立ち止まってしまった。あいつらは、エルカとの間にこれから何が起こるのだろうかとおじけづいてしまったのだ。彼女の蝶番のような口がいったん開いたら激しい舌鋒が火を噴くのが常だ。僕は家に入っていった。壁から壁に乾し紐を張り巡らして衣服を乾かしている。洗濯盥の傍らで彼女は裸足で洗い物をしていた。豪華だがよれよれのお下がりのガウンを着ていた。髪を巻き上げて束ねピンで頭に押えている。全てが蒸気の中で、僕は息を飲んだ。

 明らかに彼女は僕が誰かを知っている。僕を一瞥して言った。「ふん、誰かと思ったよ。退屈男のご登場だ。まあ、座んなさい。」

 僕は彼女に何もかも話し、異を挟むことはしなかった。「本当のことを言ってください。あなたは確かに処女で、あのいたずら者のイェチエルは実際は弟なのですか。どうか僕には嘘をつかないようにお願いします。なにしろ僕は孤児ですから。」

 「私も孤児だよ」と彼女は応えて言った。「だから、お前さんを捻り込めるような奴は誰であろうが、鼻の端が捻れるようにと願っているのさ。だけど、あいつらにお前さんは付け入る隙を与えちゃだめだよ。私は50ギルダーの持参金がほしいが、その集金は、ともかく彼らに引き受けてもらう。嫌なら、あいつらに私の尻を舐めさせるだけさ。」彼女の言うことは露骨だ。僕は言った。「持参金を持ってくるのは花婿でなく花嫁だろう。」すると彼女は言い返した。「問答無用さ。イエスかノウかのどっちかだ。・・・さあ、おととおゆき。」

 僕は考えた。こんな生地からはどんなパンも焼けないだろう。まとまるはずがない。しかし、僕らのところは貧乏な町ではない。彼らは何もかも承知して婚姻の手筈を進めてしまった。赤痢が一時に広まるように事は成ってしまったのだ。結婚式は墓地の門前の、小さな遺体洗浄小屋の近くで行われた。参会者は皆酔っ払った。結婚宣誓書が記載されるときに、極めて信仰深いラビが「花嫁は寡婦か離婚した女なのか」と聞くのを耳にした。すると、寺男の妻が花嫁に代わって答えた。「寡婦で離婚した女の両方です。」僕にとって目の前が真っ暗になる瞬間だった。しかし、僕に出来ることは、結婚式の天蓋から逃げ出すことではなかった。

 歌があり踊りがあった。年寄り婆さんの一人が僕の向かい側で、ハラーという白い編み上げパンを抱きながら踊った。披露宴の司会は、死んだ花嫁の両親のために「神に慈悲あり」を一つ唱えた。学童たちはティシャバーヴの断食祭日のようにブタクサを放り投げた。説教の後でたくさんの贈り物をもらった。麺打ち板、こね鉢、バケツ、ほうき、ひしゃく、その他もろもろの家事用品。そのとき、ふと見ると、ベビーベッドを運んでくる、つり革をした二人の男がいた。「これは何のためだ」と僕は聞いた。彼らは「そんなふうに頭を痛めなくてもいい。大丈夫さ、今に重宝する」と言った。僕はまたからかわれているんだ。しかし、どうしたって、これ以上失うものなんてあるものか。顧みてみるに、これからどうなるのか見てみるしかない。町中が狂っているというわけでもあるまい。

(続く)