Comments by Dr Marks

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No. 5.

『阿呆のギンペル(Gimpel the Fool)』 5


 すると彼女は、赤ん坊は未熟児だったと言った。僕は、「ずいぶんな早産にしては小さくないじゃないか」と反問した。更に彼女が言うことには、彼女のように短期間で子を産む祖母がいたそうだ。一滴の水が更にもう一滴の水となるように彼女はその婆さんに似ているのだろうという説明だ。彼女はそういって誓ったが、そんな誓いは市場で百姓が使ったんなら信じてやってもいいような代物にすぎない。まったく正直なところ、信じることなどできなかった。しかし、次の日そのことを町の校長に話してみたら、まったく同様なことがアダムとイヴの間では起こったと教えてくれた。二人でベッドに上ったら、降りるときはもう四人だったそうだ。

 「イヴの孫娘でない女はこの世に存在しない」と校長は言った。

 万事がそういったわけで、彼らは僕が無知だと言い張るのだった。しかし、そうだとして、誰がそんなことを本当に証明できるというのか。

 僕は悲しみを忘れかけようとしていた。僕は子供を猛烈に可愛がったし、彼も僕を好きだった。僕の姿を見るやいなや小さな手を振って抱っこをせがむし、腹痛でむずがるときにあやせるのは僕しかなかった。僕は小さな骨のおしゃぶり輪と金色の帽子を買ってやった。彼は誰かからの悪意に満ちた視線を永遠に浴びてしまうので、それを取り除くための何らかの手段を彼のために入手するべく奔走しなければならなかった。雄牛のように働いた。わかるだろう、家の中に餓鬼がいるということは経費がかさむということを。ところで、これは嘘じゃない、そのことでエルカが嫌になったこともない。本当だよ。彼女は僕に向かって誓ったり罵ったりするが、彼女にとってはまだ不十分のようだ。何と強い女なんだ! 彼女の顔つきを一目見たら、誰だって言葉を失ってしまう。しかも彼女の弁舌たるや! どろどろの瀝青と臭い硫黄で固めた嘘で満ち、しかも、どうにかして愛嬌も同様に満たそうとする。僕は彼女の一言一言にほれぼれするほどだった。ただし、それで血まみれの傷を負ったのは言うまでもない。

 晩になって、黒パンだけではなく彼女のために白パンの塊りを持ってきて、僕のためにはケシ粒の巻きパンを焼いた。僕は彼女のために盗みをして、手が伸びるところのものは、マカロン菓子、乾しブドウ、アーモンド、ケーキと、何でもくすねてきたのだ。パン焼き場のオーヴンで女たちが温めるために置いていった土曜日のシャバト用の鍋から盗んだことは、許されるように願っている。しばしば鍋の中から、肉のかけら、プリンの塊り、鳥の足か頭、胃袋の切れ端、急いでつまめるものは何でも取り出した。彼女はそれを食べ、太って立派になった。

 僕は、週の間は、家を離れてパン焼き場で寝なければならなかった。毎週金曜日の夜に帰宅すると、彼女はいつも何かぼやいている。やれ、胸焼けがするの、脇腹が刺し込むの、しゃっくりが止まらぬの、頭が痛いの、とそういう類だ。ご存知でしょう、女どもの愚痴は。聞いてるのは苦しいもんです。大変ですよ。おまけに、彼女の弟と称する餓鬼が大きくなりだした。こいつは僕によく悪さをするので懲らしめようとすると、彼女が口を開いて僕に向かって罵りだすのがまことに強烈で、僕の目の前に緑色の煙霧が漂っているほどだった。一日に十回は僕を離婚してやると脅した。僕の代わりの他の男だったら、ぷいといなくなって帰らないだろう。しかし僕は、それに耐え何も言わないようなタイプだった。どうにもならないよ。肩が神様からのものなら、その上の重荷も神様からのもの。

 ある晩、パン焼き場で事故があった。大釜が破裂して、すんでのところで火事になるところだった。パンは焼けないので、家に帰るほかに為す術がないから、家に帰った。僕は、さあて、週の半ばに昼寝でも楽しもうかと思った。眠ってるダニ女を起こしたくはないから、忍び足で家に入った。入るなり、一人というよりは、まるで二人分の大きな鼾を聞いたような気がした。一つは十分におとなしいものだが、もう一つは殺されかかった雄牛が唸るような鼾だった。ああ、嫌なこった! そんなことを誰だって好きなわけがない。ベッドに上がってみると、事はたちどころに暗転した。エルカの隣には男の格好をした者が横たわっている。

(続く)