Comments by Dr Marks

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No. 7.

『阿呆のギンペル(Gimpel the Fool)』 7

第III部

 地域のラビたち全員の合意が得られたときには、既に九か月が経っていた。僕は、たったこれだけのことに、かくも微に入り細にわたった博学が必要であるとは想像だにできなかった。

 そうこうするうちに、エルカは更にもう一人の赤子を産んだが、今度は女の子だった。安息日シナゴーグに行って、彼女のために祝祷してもらった。司式者らは僕を律法の書の前に呼び出し、僕は子供に義母の名前を付けた。義母も草葉の陰で心安らかに憩わんことを。パン焼き場にやって来たろくでなしや口さがない奴らは、僕をためつすがめつしながら悪態をついた。フランポールの町中が、僕の悩みと嘆きのゆえに、再びその息を吹き返したわけだ。しかし、僕は、言われたことはいつでも信じることを決心した。信じないということに何のよいことがあろうか。今日信じないものが妻であれば、明日に信じないものは神様になってしまう。

 隣人のパン職人見習いを使いにして毎日彼女にコーンか小麦のパン一塊、あるいは菓子パンかロールかベーゲル、またチャンスがあればだが、プリンの一かけら、ハニーケーキ一切れ、結婚式用の渦巻きパン、ともかく僕の目の前に来たら何でも届けた。見習いは気性のいい若者で、一度ならず、自分で何かを追加してくれた。以前はずいぶん僕を悩ませてくれたが、僕の家に行くようになってから、親切で優しくなった。彼は僕に、「ギンペルさん、あんたはとてもきちんとした可愛い奥さんと二人の素晴らしいお子さんをお持ちだ。あんたには不釣合いだよ」などと言った。

 僕が、「だけど、彼女のことをみんなが言ってるのは・・・」と言いかけると、彼は、「まあね、あいつらは長い舌をもってて、関係もないのにおしゃべりするだけさ。去年の冬の寒さに目をつぶったように目をつぶっていればいい」とも言ってくれた。

 ある日、ラビが僕を呼び出して聞いた。「ギンペル、お前は、お前が妻に対して悪かったということで文句はないのだな。」
 僕は「そのとおりです」と答えた。
 「それはどうしてなんだ。いいか、お前自身が目撃したんだろう。」
 「たぶん、影のようなものを見たんだと思います。」
 「何の影なんだ。」
 「天上の梁の一つかと思います。」
 「なら、もう家に帰って構わない。ヤノーヴァー派のラビには感謝しなければならないぞ。長い時間掛けてマイモニデス(ランバン)の著作を調べ、該当する記述の中からお前に都合のいい解釈を見つけてくださった。」

 僕はラビの手を取ってその手に接吻した。僕はすぐにでも家に走って帰りたかった。もはや妻子と長い間別れていた障害はいささかもないのだから。しかし、そこで思案した。今は仕事に戻ったほうがいい。夕方になったら帰ることにしよう。少なくとも僕の心の中は、まるで祝日のようであったが、誰にも何も言わないでいた。女どもは毎日しているように僕をからかいあざけったが、僕の胸の内では、馬鹿話を続けるがいい、真実は水の上の油のように浮かび上がる、マイモニデスがそれでいいと言ってるんだ、だから、それでいいんだ、と叫んでいた。

(続く)