Comments by Dr Marks

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No. 12.

不定冠詞と三人称単数の「ある」は英語系、定冠詞と一人称単数の「ある」はドイツ語系

よくオランダ語は英語とドイツ語の合いの子だといわれるが、イーディッシュ語にもそれらしいところはある。前回、自己紹介文を学んだ。そこで英語で言えば My name is の is のように、イーディッシュでも Mayn nomen iz で動詞は「イズ」と発音することに気づいたろう。しかし、I am においては Ikh bin であり、am に当たるのは、むしろドイツ語の Ich bin の bin そのものである。

かように三人称単数の「ある」と一人称単数の「ある」とは、英語的だったりドイツ語的だったりではあるが、文法的に iz(איז)とbin (בין)で区別される。一応「文法的に」と言ってはみたが、あのインタヴューを何人も聞いた人は気づいたろうが、この区別なしにめちゃめちゃに話しているのがいる。まあ、そいつらはイーディッシュが片言だと言えばそれまでだが、要するにいい加減なのである。

今日は三人称単数と一人称単数だけだが、iz(איז)とbin (בין)の過去形、現在完了形、更に過去完了形を学んでおこう。三人称単数というのは「彼、彼女、それ」などに共通する。だから「私の名前」も三人称単数の動詞で受けるが、iz(איז)の過去・現在完了・過去完了の全ては iz geven(איז געווען)でよい。なに〜〜〜! と、驚くなかれ。本当にそれでいいのだ。一人称だって、英語のI was, I have been, I had been の全ては Ikh bin geven(בין געווען)でよいのだ。恐れいったか。

不定冠詞は a (א)か an (אן)になるのは英語とまったく同じ。母音の前では an (אן)になるだけだ。主格であろうが目的格であろうが、英語と同じで変わらない。ただし、定冠詞はドイツ語と同じで三つの性(男性名詞、女性名詞、中性名詞)に別れ、かつ複数定冠詞がある。古い文法書では定冠詞の変化はまったくドイツ語と同じであるが、現在はドイツ語定冠詞よりは簡略な以下のものでよいことになっている。

男性名詞:主格(が)der(דער)。与格(に)と対格(を)はどちらもdem(דעם)で同じ。
女性名詞:主格(が)と対格(を)はどちらも di (די)で同じ。与格(に)は der(דער)。
中性名詞:主格(が)と対格(を)はどちらも dos (דאס)で同じ。与格(に)は dem(דעם)。
複数名詞:性にかかわらず、また格にかかわらず、すべて di(די)。

ドイツ語に比べてだいぶ簡単だが、いい加減なんだからドイツ語みたいに変化させても構わない。本当だ。地域によって違うからそのようにしている文法書もあるからだ。更に究極のいい加減を言おう。これはドイツ語の場合もそうなんだが、会話においては語尾を口の中でもごもごとごまかせば何だって通じる。ドイツ語だってそうだよ。ただし、書く場合はごまかせない。