Comments by Dr Marks

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No. 14.

イーディッシュ語の簡単な挨拶と人称代名詞を学ぶ意味、ならびに格の名称


とてもスローなイーディッシュ語講座だが、ブログだからそれでいいと思う。シリーズで括ってまとめると日本語による初めてのイーディッシュ教則本になるだろうな。
〔独文学者による上田和夫著『イディッシュ語文法入門』(大学書林、1985年)があるが、見たことがないので今度入手してみよう。彼の名は著書を1冊読んだことがあるので知っていた。彼は昨年『イディッシュ語事典』63,000円を出しているが、収録語数はヴァインライヒと同じ2万語。ならば、数千円で買えるヴァインライヒのほうがお得なのであって、出版の意味があるのだろうか。いずれも大学書林刊。余計なお世話だが。〕

人称代名詞はまず学ばなければならない単語と概念なのだが、実際に学ぶのは次回として、先に学ぶ理由を述べる。あらゆるコミュニケーションにおいて、人称代名詞は基本であるが、他に人称によって動詞の変化があるので、動詞変化を学ぶ前に人称代名詞を学ばなければならない。また、人称代名詞は格によって変わるのでそれぞれについて学ぶ予定だ。
英語では3人称単数の動詞形が多少違う程度だが、イーディッシュ語では人称と単複で違う。

格についてはシリーズ No. 12 でも述べたが、もう一度説明しておく。
主格=第1格(格助詞「が」に相当)、属格=2格(の)、与格=3格(に)、対格=4格(を)。
それぞれを英語では、Nominative(1), Genitive(2), Dative(3), Accusative(4) と呼ぶが、Nominative の代わりに Subjective あるいは単に Subject と呼ぶこともある。Genitive は Positive とも言う。3格と4格を合わせて Objective または Object とも言う。それらを区別する場合は、dative object、accusative object となる。
英語では3格と4格の形は同じだが、イーディッシュ語は区別する。

さあ、挨拶をやろう。まず、朝の挨拶だ。「グートォン・モルグン(גוטנ מאָרגן)」。これを「グーテン・モルゲン」とやったらそのままドイツ語だ。違いはドイツ語の「テ」「ゲ」のようには母音をはっきり発音しないことだ。なお、ドイツ語でもイーディッシュ語でも「ル」の音は軽く発音すれば「ア」になる。イーディッシュ語もドイツ語もRの音に大別2種類。Lの音も大別2種類ある。RとLさえ区別しない言語の人は大変だな。

さて、ここで重要な話をする。「グートォン・モルグン」に「ア」を添えて「ア・グートォン・モルグン(אַ גוטנ מאָרגן)」とすると、「さようなら」になるから注意して欲しい。ただし、「さようなら」は「さようなら」でも、「じゃあ、よい朝をお過ごしください」という意味である。

もう午前中も終わりで午後になりかけていたら、「ア・グートォン・モルグン」と言う変わりに「ア・グートォン・トーク(אַ גוטנ טאָג)」でもよい。つまり、「よい一日を」となる。こちらも別れの挨拶であり、会ったときは「ア」なしの「グートォン・トーク(גוטנ טאָג)」でなければならない。このように、ドイツ語(グーテン・ターク)に似ているようでイーディッシュ語らしい違いはあるのだ。本来は、英語でも言うように Have a nice day! の have が省略されたわけである。

夕方は、会ったときは「グートォン・オーヴント(גוטנ אָוונט)」が普通だが、ドイツ語のように「オーヴント」と言わず「アーヴェント」と言う人もいる。さて、その後、別れるときには何と言うか。「ア・グートォン・オーヴント」だって? うん、状況によっては、それでよい。例えば、これからパーティーとか夜のお祭に出かける人にはそれでいい。

しかし、普通は、「おやすみなさい」だろう。「ア・グーテ・ナハト(אַ גוטע נאַכט)」でよい。Good night! の意味だ。ここで、「グーテ」となったのは「ナハト(夜)」が女性名詞だから。

いつでも「さよなら」になる Good bye! に相当する挨拶も紹介しよう。「ア・グートォ・ヨール(אַ גוט יאָר)」なら一日中使える。えっ、じゃ「ヨール」の意味は何かって? よーるがまーた来る〜♪、おーもいでー連れて〜♪・・・じゃないよ。英語のYear、すなわち「年」の意味。だから、一年中使える、なんちゃって。お後がよろしいようで。

(その他の挨拶、「ご機嫌いかがですか」等は機会をみてシリーズに挿入します。)