Comments by Dr Marks

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ヘレーニステースとはギリシア語を話す人? ヘブライーオスとはヘブル語を話す人?

下の記事を書いてから、使徒行伝6章1節を思い出した。ここL.A.にはバイリンガルの教会が多い。アルメニア人の教会ではアルメニア語の説教の時間と英語の説教の時間があったりするし、カトリック教会では英語の時間とスペイン語の時間がある。日系教会では、だんだん日本語部が少なくなっているとはいえ、日本語礼拝と英語礼拝がある。

そのような状況にあるクリスチャンは使徒行伝のこの箇所がよくわかる。しかし、今、日本語の新共同訳聖書を見たら、ヘレーニステースは「ギリシア語を話すユダヤ人」と訳されており、ヘブライーオスは「ヘブライ語を話すユダヤ人」となっていた。しかし、書棚にあるいくつかの英語訳を見ると、あからさまにギリシア語を話すのがヘレーニステースだなどと訳しているのは稀だ。

西欧語同士は便利だから、ここでは the Grecians とか the Hellenists となっていて、ことさらギリシア語を話すなどと具体的な説明訳をすることはない。もっとも Living Bible という訳は「ギリシア語だけを話すユダヤ人」などとかなり大胆な訳である。

私も新共同訳の説明的な訳なら妥当だと思っている。ヘブライ語(ヘブル語)を話すユダヤ人というのは誤りで、彼らはアラム語を話していたはず、などと屁理屈はこねたくない。このコンテクストでは、アラム語もヘブル語の内となっているだけで、「ヘブライ語を話すユダヤ人」で少しも不都合はない。

ただ、Living Bible のように those who spoke only Greek などというのは極端すぎる。実際、L.A.では、日語部、スペイン語部、アルメニア語部に集う信者も、多くは英語もできるのだ。ただ、利き言葉が英語でないというにすぎない。当時のエルサレムのような都会では、多くの人々がアラム語(ヘブル語)とギリシア語の双方を理解したと思って差しつかいない。

しかし、これは本当は言葉だけの問題ではない。言葉が違うということは、微妙に文化や考え方などに差が出てくるのである。エルサレムの初代教会においても、事は言葉の問題を越えたものであったろう。そして、その差異は神学的な(あるいは信仰的な)違いとなって出てくることになったはずである。したがって、このヘレーニステースとヘブライーオスとは、キリスト教会起源の問題としてしばしば議論の対象となっている。