アメリカ史で注意すべきこと(人名の異綴りについて):東欧人と日本人など、本来ローマ字を使わない移民(例:「ワタナベ」の綴りは少なくとも22種ある)

昨夜は、たまたま入手したハーヴァード大学燕京研究所の出版物の著者の一人である日系人について調べていたが、恐ろしいことにネットだけで遺族の住所や電話番号までわかってしまった。本人は一応ハーヴァードやエールで教育を受けておりワシントンDCの American University の教授ではあったが(1912年生−1978年没)、著書は、その共著であるものと、単著は学位論文しかない。研究者というよりは、単なる大学教授であるから、普通にはヒットしないのだが、アメリカの国勢調査は70年経つと公開されるので誰でもアクセスできたのだ。(そこから情報を繋いだ。)

そのとき思い出したことを書く。東欧から来た人たちは、19世紀から第二次世界大戦後も、多くが自分の名前のローマ字表記で悩み、面倒なので、西欧の該当する名前とか、西欧風の名前に変えてしまった者も多い。前者はヴァッセルマンがウォーターマンなどで、後者はミロヴォッチがミルズなどである。また、翻字も目茶目茶なので、チという音をch、tz、cz その他いろいろに書いたので大変であった。

日本人名も「城(ジョー)」さんなどは、今なら Jo、Joh、Joe などであろうが、実際に Dyo という人もいる。ただ、音に基づいているので、現在なら「上田(ウエダ)」さんは Ueda なのが、第二次世界大戦前の移民家族ならたいてい Uyeda である。それで、日系として古いか新しいかわかるほどだ。一般的な苗字の一つが Watanabe なのだが、この苗字には凄まじいほどの異種綴りがあると聞かされた。

「渡辺、渡部(ワタナベ)」は漢字ににも異種があるし、ワタベとかワタノベという読み方もあるそうだが、日本の研究者総覧によれば、少なくとも研究者の間ではどちらの漢字もワタナベと読むのが圧倒的に多い。だからであろうか、アメリカの大学教授などは、日本人に多い名前として、Watanabe と見ると、ほとんどが正確に発音する。一般の米国人は無知だから、ワタナビーなら許せるかもしれないが、ワタン-ネイブあるいはそれ以外の奇妙な発音をされてしまう。

さて、以下の苗字は実際に米国センサス(国勢調査)から採取された Watanabe の異種綴り21種である。(Watanabe を加えると22種。)そのように移民官は聞こえたのであろうが、信じられない綴りや、逆にカッコいい綴りもあるぞ。東ヨーロッパから来た移民官が聞き取ったのかと思うようなものもある。そうそう、どうしてこれらが本当に Watanabe の異種綴りであると断定できるかの理由を言おう。

まず、初期(19世紀後半)の日本人単純労働移民は、ほとんどがローマ字など読めなかった。移民官が彼らの申し出る苗字の発音を聞いて、勝手に適当に記入した。しかし、彼らは、それがワタナベだと信じるしかなかった。そののち日系人の中にも教育を受ける世代が出て役人になり、多くの不思議な綴りに気が付いた。本人を呼び出して確認すると、彼らは下記に書き出した不思議な綴りにもかかわらず、「ワタナベ」と名乗る。そこで正式に Watanabe に訂正することにしたのである。なお、ここには「ワタベ」と申告した異種綴りは含めていない。あくまでも「ワタナベ」だけである。

Atanabe, Falanabe, Halansbe, Hatanabe, Hatane, Hatenebe, Hutanabe, Matanate, Natanabe, Natanahe, Vatenak, Wabanabe, Wagnabe, Wahabe(これはワタベだった可能性もあるが、Watanabe に訂正されていた), Wainsnake, Wakanabe, Walandber, Wanlanabe, Watamabe, Watamake, Watanaba