Comments by Dr Marks

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江戸ブームというのがあったのか、知らなかった。それでわかった京都大学教授ベッカー先生の変な江戸観。

この夏にロスアンジェルスで某京都大学教授に会った、とかつて書いたが、名前を言っちゃう。カール・ベッカー先生。彼は江戸期の日本を美化していて、理想の世界だったと言う。鎖国も良かったし、それが人々の平安と幸せに寄与したと言うのだ。もっとも、私の呈する身分制度はどうなんだという疑問に対しては、率直に回答が難しいと告白していたが、江戸期が理想という持論は撤回する気がない。不思議だったが、小谷野敦先生の猫猫ブログで、ああそうか、とわかった。

うーんまた坂本龍馬かよと思っていたら驚いた。『坂の上の雲』もそうだったが、NHKに何が起きたのか。この20年「江戸ブーム」で、それ以前の、厳しい身分制社会、貧農史観は過剰に見直されてしまって、インテリでさえ「お江戸でござる」的にみんな明るく楽しく生きていたみたいな江戸幻想を抱いている人がおり、大河ドラマもその例に漏れず、お姫さまが下級武士とデートしたり、家臣の妻が信長の前へしゃしゃり出たりとえらいことになっていたが、ガラリ変わって、下級武士の貧しく汚い生活をきちんと再現しているではないか。これだこれだ、これが本当の徳川時代だ、俺が言いたかったのはこれなんだ、これで「江戸幻想」も吹き飛ぶぜと随喜したぜよ。http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20100104

あれはベッカー先生の「江戸幻想」か、と言ったらベッカー先生に叱られるかもしれないが、小谷野先生のおっしゃる通りではないかと思ってしまった。ベッカー先生がひょっとして目にするかもしれないので一応弁護しておくと、江戸時代は各藩が自給自足で余計な交流や交渉もなかったから(この前提自体も私は疑問だが)、それだけ平和だったと言うのだ。確かに、現代の宗教が絡んだ軋轢と抗争を考えると、江戸期の日本はベッカー先生の理想であったかもしれないが、肝心なところに目をつぶってしまった、誤った理想だと私は思っている。

ひょっとしたら彼が見るかもしれないというのは、知っている人なら知っているが、彼はなかなかの日本語使いだからだ。ハワイ大学で宗教学でPh.D.を得た後、井門富二夫先生のいた筑波大学などで教鞭(もちろん日本語で)をとり(私はこの頃日本の学会で彼に初めて会った)京都大学に移り、確か外国人教師とではなく正式に国立大学の教授になった第一号だからだ。私とフラーで同期の青山学院大学のPTS准教授なども日本語の確かなアメリカ人教師だが、PTSには悪いがベッカー先生の語彙力のほうが天下一品だ。勘違いされて困るのは、私が確かな日本語使いというのは、単に流暢に日本語が話せるというレベルのことではない。学術書の読み書きも遜色なくできるということだ。(となると南山大学のスワンソン先生などもそうだが、彼は日本育ちなので例外。)そういえば、この3人とも奥さんは日本人で日本に長く住んでいるのだから、会話は当然日本人並だな。

あれっ、結局、今日の記事は何だ? そうそう、Antonian氏(庵主様)のブログに出没する「ガメ」さんなんかも、読み書きは英語より日本語が上手そうだな(これ、彼の英語ブログも読んだ私の個人的感想)。