お調子者の「名古屋大学出版会、再び」(猫猫先生ブログ)へのコメント
この話題(http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20100725)のうち、なぜ名古屋大学の正式名称が Nagoya University なのに、名古屋大学出版会が University of Nagoya Press なのかの問題に集中する。余はお調子者ですぐに声が聞こえれば反応する。
確かに、小谷野敦先生ご指摘の通り、東京大学出版会(University of Tokyo Press、略称:東大出版会)は大学名が正式に University of Tokyo 名であるから出版会名もそれに基づいている。そして、東大出版会は発足のときから東大総長を形式的ながら理事長に仰ぎ、理事・評議員も東大関係者で占め、東大との繋がりを密にしている。ところが、後発の名古屋大学出版会は資金的な面などで東大出版会とは違った経緯があるようだ。
両出版会は財団法人であるので設立の趣意と組織が「寄付行為」という公的文書(株式会社や社団法人の「定款」に当たる)によって明らかにされるはずであるが、ネットでは見ることができなかった。従って、正確なことは私も何とも言えない。以下のことだけを指摘しておく。
大学出版会(あるいは大学出版局、大学出版部)の多くは、自分の大学関係者の著作だけを出すということはもともとない。例えば、拙著も某大学出版会から出ているが、余はその大学では教えたことも学生として在籍したこともない。まったくの無関係だ。大学の名称が出版物の出自を示すことは実際としてないのである。
大学出版会が大学の正式名称を出版会名に組み込むとは限らない。しかし、多くは大学の正式名称を出版会名に組み込んでいることも確かである。古く、かつ大手である出版会からいくつかを挙げれば、東大出版会は大学の正式名称を組み込んでいる例であり、University of Chicago Press、Harvard University Press、State University of New York Press (SUNY Press)、Johns Hopkins University Press などである。反対に、通称を用いて正式名称を用いていない最も有名な例が Oxford University Press であろう。
オックスフォード大学の正式名称はあくまでも [The] University of Oxford であって、Oxford University は通称である。しかし、オックスフォード出版会の正式名称はこの通称を用いながらもオックスフォード大学の正式な一部局となっている。そうであれば名古屋大学出版会もその例であるかと問われれば、そうとは言えない。Oxford University という通称自体が長い伝統にあるからオックスフォードの出版会はそれを自分たちの正式名称に使用したのであり、名古屋大学出版会が取って付けたように University of Nagoya Press というような奇妙な名称にしてしまったこととは一線を画すべきであろう。
ここで小谷野先生の初めの疑問に返る。本当は複数でUniversities of Nagoya Press にしたかったのであろうか。それとも本来が集合体を表わす university なのだから集合名詞的に単数を採用したのであろうか。また東大出版会のように密接ではなくとも、最初に音頭を取ったのが名古屋大学であり、理事長も名古屋大学総長なのだから密かに単数にすることで名古屋大学を強調したのであろうか。つまり、そうすることによって、正式名称を使わないのであるから名古屋大学ではなく名古屋「の」大学だという屁理屈を言えるし、名古屋大学人には「の」の入らない名古屋大学であるとの言い訳もできる。
さて、英語的にはどうか。名古屋の諸大学という意味ではやはり複数形の Universities of Nagoya Press が妥当だろう。しかし、納まりの悪い変な英語であることも確かだ。だから、名古屋地方の大学群と考えて(大学群のオックスフォードの町のように)単数としたとも考えられる。また、奇抜のようだが、そこまで深く考えなかったというのはどうだろう。案外そうかもしれない。
ひょっとしたら、名古屋大学出版会関係者より事情に詳しい人に聞いたほうがいいかもしれない。世界の大学出版会に詳しい人物だ。もう長らく会っていないが大学や仕事上の大先輩で箕輪成男という人がいる。草創の頃の東大出版会の専務理事で、内外の大学出版会の団体の会長や役員だった人だ。国連大学の出版部長やその後は方々で大学教授の真似事もしていた。〔断っておくが、「真似事」は余が言うのではない。箕輪先生自身の口癖だ。〕