Comments by Dr Marks

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素人の本なんて読むものか:マイケル・グラントのでたらめ本『聖ペテロ』


パサデナの某教会で式典があったので出向いた。写真はその教会の中庭だ。千人ほどが集った式典だったが、中庭はご覧のとおり余以外には誰もいない。その後のランチョンはユニヴァーシティ・クラブだったが、少しだけ時間があるので図書館で本を1冊借り出して読んでいた。

ペテロに関する概論で新しいものをと思っていたら、製本も出版社もまともで目に好ましいということで選んだのがマイケル・グラントの本。オスカー・クルマン(Oscar Cullmann、1902−1999)の『ペテロ』以来、碌な本がないということもあるが(パウロ関係は多いんだよな)結局は変な本を選んでしまった(自前で買わなかったのが救い、なんちゃって)。

その本というのは、Michael Grant, Saint Peter: A Biography (Scribner, 1994)だ。駄目な本まで紹介しなくても、というかもしれないが、駄目本を駄目だと知らしめるのも余の仕事。目次を見たら、まず Part 1: How Do We Obtain Information? Chapter 1: The Problem of Research, Chapter 2: The Sources。うーむ、なかなか、と思うじゃないか。ところがこれが食わせ物。

参考文献を挙げながらも、内容に少しも反映されていない。それを読んでいれば当然知っていなければならないことを知らないか理解していないのだ。引用注を苦労して開いてみるが(脚注はいいが後注は読みにくい)さっぱりわからない引用なのだ。くそー、やっぱりこいつは素人か。

マイケル・グラント(1914−2004)は金持ち軍人の子でハロー校からケンブリッジ組。専門らしい専門は古銭学のようだが、古代史がらみで原始キリスト教史にまで首を突っ込むただのノンフィクション作家にすぎない。もう少し、ましかと思ったが、やはり素人は肝心のことがわかっていない。彼についてはウィキペディアにあるので興味があればどうぞ。(http://bit.ly/cPClHq

まあ、毒にも薬にもならない本もあるでしょうから。しかし、キリスト教史ものは駄目ですよ。ああ、そうそう、そのウィキペディアの記事に『ザ・タイムズ』からの引用がある。「学者は彼の揚げ足を取り続けようとしても、大衆は彼の本を買い続ける」ってよ。大衆作家に学者は勝てないよ、あーあ。

そんな徒労のあった日だが、よい一日であった。二日前のように暑くもない日であったし、ランチョンの前に、書き下ろした論文の中で余の著作を引用したと言ってくれた人がいたからだ。単純だなあ。やっぱ、余も俗人。俗人で文句あっか? ああ、大衆作家になってみたい。・・・やっぱり暑さで頭が・・・。