Comments by Dr Marks

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エジプトのムスリム兄弟団(アル・イクァーン、Al-Ikhwan、Muslim Brotherhood)に関するショート・ノート

ムバラク大統領は長くとも今年秋口までしか政権に留まることはない。その後の政権がどうなるかは未定である。その中でムスリム兄弟団の役割は、識者の懸念するところである。(ムスリム同胞団とも日本語では言うがどうもしっくりこない。)

ムスリム兄弟団はエジプトに発祥しながらも現在ではイスラム諸国に広がっている(敢えて言えば)イスラム原理主義系の政治組織である。かつて発祥の地エジプトでは公的に政党とは認められていなかったが、現在では実質野党第一党で、全議席の5分の1弱を占めている。その意味ではれっきとした合法政党であり、武力革命等を目指すものではない。英語版の同党のサイトはこちら→http://www.ikhwanweb.com/

イスラム教では多数派で穏健派であるスンニー派に大きな母体があるので、イスラム過激派との関係は薄いとの見方もあるが、実態は必ずしもそうではない。この組織の組員(←ヤクザみたいでごめん)とアルカイダには少なからぬ人的交流がある。また、この組織の創始者ハッサン・アル・バンナ(1906−1949)のスーフィズムにみられる神秘主義・反権威主義イスラム法至上主義は、近代的な民主主義とは遠く隔たっている。

この組織の歴史はエジプト政府との戦いの歴史でもある。弾圧と暗殺の繰り返しであった。ハッサン・アル・バンナも暗殺によって1949年に40歳そこそこの生涯を閉じたが、それは前年にムスリム兄弟団の一員が当時のエジプト首相であるパシャを執務室で暗殺したことに対する報復でもあった。

もちろん、既に世俗化の進行したエジプトにおいて、ムスリム教団内の過激な左派が台頭するとは考えにくいが、予断は許さない状況にある。その辺りを見定めて民主化をうながさないと大変なことになる。例えば、彼らがたとえ選挙で合法的にエジプトを支配したとしても、宗教差別(ディンミー、dhimmi)などを実施して、早速コプトキリスト教徒やユダヤ教徒などに被害を及ぼさないとは限らないのである。なにしろ、それが彼らの理念なのだ。

むしろ、現代エジプトのように、世俗化が進めば進むほど、宗教原理主義というのは、往々にして過激な反応と新たな共鳴者を生み出すのである。いやー、身近な例なんだけどね、爺さん婆さんは改革派のユダヤ教徒か罰当たりで、父ちゃん母ちゃんは大学教授とか報道関係者でも、孫が超正統派のユダヤ教徒になっちまったというのが2例あるんだ。同じ家族じゃない。二つの家族でそれぞれ1例ずつが超のつく正統派ユダヤ教に。本格的にイスラエル留学だかんね。ああ、怖・・・。