猫猫先生よりのコメント「エロスとアガペー」に寄せて
小谷野先生からルージュモンの紹介がありました。ただ、「アガペーとエロス」を対比するテーマは古くからのもので、多分、Anders Nygren の著作などは随分昔に日本語に訳されているのではないでしょうか。
jun-jun1965 『エロスとアガペー、という区分は、ルージュモンの『愛と西欧』以来でしょうか、えらく広まりましたが、ソクラテスの区分では、エロスは精神的な個体への愛で、性的執着はアフロディジアです。これは誤解している人が多いですね。』 (2007/10/05 08:54)
そうですね。広がりますがそれはそれでそれぞれに興味の趣くところなので私も読者も助かります。コメントありがとうございます。(どうやら「広まりました」を「広がりました」と誤読したようです。しかし、このままにします。)
読者のために、簡単なギリシア語での愛の分類をしてみたいと思います。先に、キリスト教の内部で理解する愛=アガペーについて述べましたが、一般ギリシア語(古典期ギリシア語)での愛の理解について、Oxford の Liddell and Scott ギリシア語辞典から見てみましょう。今、自宅なので私の辞書は簡略版で大橋教授流に言えばOEDでなくODEみたいなものですが説明には十分です。(なお、聖書や初期キリスト教のギリシア語はコイネー期ギリシア語なので普通別の辞書を使います。)以下のギリシア文字はアクセント記号を省略しています。
1)まず、エロス(ερως またの綴りはερος 前者はエロース後者はエロスと発音)ですが、「何かを熱望する愛」と定義されています。
2)次に、アフロディジア(αφροδισια アフロディシアと発音するが、英語圏の人がローマ字化して aphrodisia と綴るとアフロディ「ジ」アと濁って発音する)ですが、容易に想像がつくようにこれはラテン語化してヴィーナス(発音は英語化)となった愛の女神アフロディテに関係します。「お祭り的愛の放埓」です。
3)他に、フィリア(φιλια)という言葉をお聞きの方も多いと思います。これは友人としての愛「友愛」です。
4)キリスト教徒が大事にする愛アガペー(αγαπη)もこの辞書では単に「友愛(brotherly love)または慈善(charity)」と定義されているだけで、後代のキリスト教の大袈裟な定義はありません。
このように、言葉には、一般的な使われ方と、誰々がこう定義したという特殊な意味とがあります。ルージュモンがとか、ソクラテスがとか、パウロがとか、と同様に小谷野先生の定義があるわけでしょう。
おまけですが、エロスは男性名詞、他はみな女性名詞です(←で、それが何か?)。
追加:猫猫先生にこんなこと言われましたので、こんなこと本家のブログに書きました。←この件に関し、猫猫先生の言うことは本当です。