Comments by Dr Marks

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第三の史的イエス研究とは俺のこと「だ」とトム・ライト言い

史的イエス研究史の区分といえば、「史的イエス研究」、「新史的イエス研究」、「第三史的イエス研究」の3区分が有名だろう。英語で(この場合の英語でとは「国際的に」の意味)それぞれ、Quest、New Quest、The Third Quest と称する。

Questはシュヴァイツァーの用語(もともとはドイツ語でLeben-Jesu-Forschung ではあるが)に基づく。今ではドイツ人学者も英語で簡単にQuest という。(言わない人もいるけど、もちろん。)命名したのは1906年

New Quest は初めから英語で使われた。なぜかといえば、命名者がアメリカのロビンソン爺さん(James M. Robinson)だから。なお、先に、彼がドイツに留学したときと書いてしまったが、バーゼル大学なのでスイスに訂正する。命名したのは1959年。

The Third Quest も初めから英語なのは命名者がイギリスの通称トム・ライト爺さん(N.T. Wright)だから。命名したのは1982年。ところでなぜトムかといえば、N.T. とは Nicholas Thomas なので、本人がトーマスからトムと呼んでくれというから。さて、トム爺さんはもう一つの名前をある団体およびそこに属する史的イエス研究に付けた。すなわち、Jesus Seminar とその輩には、the New Quest renewed を与えた。

なぜか? トム爺さんは自分を含めて、シュヴァイツァーの線に沿って、終末のイエスを紀元1世紀前後のユダヤ教的史的背景の中で探究する流れとして捉えたのに対し、Jesus Seminar は終末のイエスという姿を神学的に初めから排除しているからだ。ところが、トム爺さんの定義にも拘わらず、トム爺さんの用語が、1980年代以降の新しい史的イエス研究全般に勝手に適用される現象が起こってしまった。

トム爺さんによると、Jesus Seminar は史的イエス研究の団体などではないことになる。トム爺さんは、第三?、そりゃ俺のこと、ということになる。もっとも、こんな用語は、用語の示す内容次第であるから、他に New ではなく、No Quest の時代などという命名もある。

さて、トドさんがコメントで第一、第二、…、とおっしゃったが、そのような研究史の時代区分(あるいはグループ区分)をした学者は誰か。ドイツのゲルト・タイセン(Gerd Theissen)だ。1996年に出版された Der historische Jesus: Ein Lehbuch(史的イエス:教科書)という本で5段階に分類している。この本は英語やスペイン語に訳されており、書名に示すとおり、学部専門課程や大学院の教科書として広く使われている。(タイセンのドイツ語書名は既に英語の the historical Jesus という言葉を反映している。それほど今では、史的イエス研究の中心が英語圏に移っていることの現れである。)

私の持っている英語版は The Historical Jesus: A Comprehensive Guide(史的イエス:総合案内書)という書名であり、642ページの大冊で、まさに総合案内だ。教科書として使えるように(大学教師も楽になったもんだ)練習問題(!)まであるよ。日本語版があるかどうかを確認したが、見つからなかった。英独西のどれかを利用するしかない。今日はここまで。(以下、随時、気が向いたら書きます。5段階の中味くらいは書かなければと思っています。)